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ブンミおじさんの森の海のレビュー・感想・評価

ブンミおじさんの森(2010年製作の映画)
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よく出来た怖い話を聞いたとき、鳥肌が立つ。あれをわたしは、未知への畏怖と感動が合流して生まれているものだと思っている。神か悪魔かも分からない不明瞭な現象に感じてしまう感動、興奮、憧憬は、それを追う途中で魂を落としたとしてもなお、止め処なく湧き上がるだろう。つまるところ恐怖心は、その疾走の歯止めに過ぎない。去年、トラン・アン・ユン監督の映画を2本同じ時期に鑑賞して、ベトナムに浸透している死生観について気になり少し調べたことがあったけれど、どうやらタイもよく似ているようだった。日本よりもずっと死がそばに在るらしい。使う言語によって人格はいくらでも左右され、同じ器、同じ魂を全く違うふうにしてしまうのだという話が、わたしは好きで、親しいひとにはかならず振ってしまう。それが何故なのか、少し分かった気がする。わたしにはきっと、この映画を理解し尽くす日は来ない。まだ自分一人ではどこへも行けなかった頃、母がよく図書館やレンタルショップに連れて行ってくれた。そのたび、この世界に知り尽くせないほど存在している知らない場所や芸術や物語を探し回った。恐怖したかった、そのとき同時に訪れる物凄い感動にも似た、泣きたくなるほどの魂をゆさぶられるほどの憧憬を何度でも通り過ぎたかった。この感覚、あんなに幼い頃からわたしは知っていて、それでもまだ知らないことが残っていて、わたしがわたしの器と魂で生きている限りは、どんなに歳をとってもそのあいだ貪欲に知り続けたとしても分かることはできない世界が絶対に一定数存在していると、思うと、 神さま、わたしは、全てのいのちに染み付いた思想を、どうしても冒涜したくないのです。
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