umisodachi

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。のumisodachiのレビュー・感想・評価

4.2
スティーブン・キングのホラー小説の映画化作品。子供たちに恐怖を与えて襲うピエロが登場する。

実は1990年制作のテレビドラマ版も観ている。観た頃まさにティーンエイジャーだったこともあって、あまりの怖さに忘れられなかった作品。

今回の映画化の評判がすこぶる良いことは知りながら、なかなか映画館に足を運べなかったのは、あの時の恐怖があるからに他ならない。

しかし!やはり観ねばならぬ。遅ればせながら映画館で頑張って観た。

『スタンド・バイ・ミー』との共通点を指摘される本作。少年少女たちによる極上の成長譚に仕上がっている。スティーブン・キングは、子供から大人へ差し掛かるくらいの年齢を描く天才だ。

吃音、潔癖、神経質、肥満、臆病、虐待と
あらゆる弱点や傷を抱えている少年少女たち。「LOSER」と名乗る彼らは、特別な存在でもなんでもない。程度の差はあれ、私にだってあなたにだって弱点はあるし、子供の頃には、恐怖の対象だったものがあったはずだ。

仲間になる過程、異性に惹かれる過程、喧嘩する過程。友人関係が世界のほぼ全てだったあの頃に、日々心を揺さぶり、毎日を輝かせたり曇らせたりした、あの独特の感覚が蘇ってくる。ホラーなのにスクリーン全体がキラキラして見えて、若さにむせかえるようだった。

7人もいる仲間たちがひとりも霞むことなく、全員のキャラが立っているのにも感心した。皆それぞれに個性的で、魅力的。それぞれの性格に応じた言動を丁寧に描写していることで、無理なく彼らの"仲間"になることができる。冒頭で行方不明になる主人公の弟を演じた少年も、達者な演技で驚愕した。本当に子供?子供にあんな演技ができるもの?

ピエロ=ペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドも素晴らしい。どこか、ピエロ自身も幼児性を帯びているように感じさせるのが凄い。

子供にしか見えず、ターゲットの恐怖にアプローチする恐るべき殺人鬼ペニーワイズ。『スタンド・バイ・ミー』も恐怖を克服して成長する物語だったが、『IT』はその"恐怖"を具現化し、もっと分かりやすく提示している。

『スタンド・バイ・ミー』に比べるとエピソードが散漫で、うまくまとまっていない個所も多々あるのだが、そんな、ちょっとした"とっちらかった"感も含めてあの年代特有の混乱した日々そのもの。(そもそも、短編を映画化した『スタンド・バイ・ミー』と、長編の『IT』の構成を比べるのも可哀想ではある)

言いようのない不安とか、訳の分からない恐怖とか、なんの根拠もなく湧き上がる万能感とか……。理屈で制御できない成長期特有の、あの感じ。できればもう1度観て、またあの感覚を味わいたい。青春映画の傑作がまた1本誕生した。

あ、ちなみに1つだけ腑に落ちない点が。
→私だったら、間違いなくビルよりもベンを選ぶけどな。
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