くるみ

LOGAN ローガンのくるみのネタバレレビュー・内容・結末

LOGAN ローガン(2017年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

本作がウルヴァリンやプロフェッサーの老いを描いているとは知っており、それなりに覚悟もしてきたのですが、始まりのシーンからつらかったです。
立ち上がるだけで億劫そうなローガンは、悪漢たちに撃たれて無様に倒れてしまう。起き上がって爪を出しても、足を引きずりながらの動きはにぶく、殺して追い払うまで以前の何倍も手こずっている。ローガンがこんなにも落ちぶれてしまったとは。不死の身体と折れない爪を持ち、X-MENの映画シリーズを背負ってきたローガンが、こんな未来を迎えるとは。老いが誰にでも来るとはいえ、こうもリアルに表現されるのはショックでした。

そのうえ、老いはチャールズとミュータントたちにも訪れていました。友人すら忘れる記憶力、制御できない能力、消えていく同胞。ローガンがチャールズを閉じこめる描写はつらかった。
終盤に明かされる情報によると、ミュータントは科学的な方法で絶滅を図られたようです。フューチャー&パストで出たようなロボットではなく、遺伝子組換え食品でミュータント因子を排除された。また、ローラたち新しい世代のミュータントも、人工的に作られて「ギフテッド」とは程遠かった。

つまり、ミュータントとともにヒーローも絶滅しそうになっていたのです。恵まれし子らの学園は、チャールズの能力の暴走によって滅び、彼は大量破壊兵器、あるいは怪物でしかない。ローガンはガブリエラの救いの声を拒否し、ローラのX-MENのコミックスを見て憎々しげに叫ぶ。「こんなのはファンタジーなんだ、架空の世界だ」と。彼らは確かに存在したのに、ミュータントや人間たちを救ってきたのに。ローガンは自身の理想、ヒロイズムを否定します。
従って、ローガンやチャールズが追いつかれたものは、老いや死ではなく、現実なのでしょう。ヒーローがヒーローたりえなくなったのは、彼らが理想を信じなくなったからです。超人パワーが誰かの救いになるなんて絵空事で、人を殺す道具にしからない。それが2029年のミュータントの現実でした。

アメコミは、リアルなアメリカを架空のお話に映して作られてきました。本作でローガンたちが旅をするアメリカも、現実としっかりリンクしており、この1、2年の現実の移り変わりが描かれている。一作目の決戦の舞台は移民の入り口、自由の女神でしたが、いまやアメリカは移民を拒否して排外主義に傾いている。メキシコは、アメリカに麻薬を提供する国になっている。人種のるつぼやアメリカン・ドリームといった言葉は遠くなり、理想の国ではなくなった。しかもわかりやすい巨悪やロボットが出てきたというより、ごく自然に、いつのまにか、民衆たちが望むままにです。

現実に追いつかれたローガンですが、プロフェッサーはまだ理想と希望を持っていました。彼の唯一のよすがのように、新しいミュータントを喜び、テレパシー能力に執着する。ローラが初めて笑いかける相手がチャールズで嬉しかったですし、一緒に映画を見るところはかわいすぎた。そんなチャールズでも、人殺しの烙印からは逃れられない。ウルヴァリンをコピーしたX-24は、ミュータントの影で過去で、現実なのだと思う。

つらいと感じる一方で、私はこんなX-MENが見たかったんだとも思った。シンガー監督の、特に『フューチャー&パスト』と『アポカリプス』をポジとすると、ネガのほうのX-MEN。強大すぎる力で人を殺してないなんてありえない世界。子供向けに漂白されておらず、特に感動のための演出が極限まで削られている点は非常に好きです。チャールズの死を、あの家族をかばう形にもできただろうに、作り手は徹底的にヒロイズムを削いでくる。絶望を見せつけてくる。
従って、こんな荒れ果てたマッドマックスのような砂漠で、ローガンたちがどうやって水を見つけるのか知りたくなった。本当に救いをあるのか見届けたくなった。安らぎとしての死しかないかもと疑いながら。

救いの存在は、始めから示唆されてはいました。ローラです。彼女は次世代のミュータントで、ローガンの遺伝子を継いでいる。しかし彼女は、あまりに幼く、人殺ししか知らず、大人たちを信用していない。彼女の目指す架空の国は、本当に存在するのかも怪しく、着いたら着いたで子供たちしかいなかった。
しかし、彼女はローガンやチャールズに出会う前から、X-MENのことを知っていた。ガブリエラに教えられてコミックスで読んだからです。ローガンが理想を捨てて絶望しか望まなくなっても、ミュータントというヒーローを語り継いできた人、今でも信じる人は存在している。
ヒーローの絶滅が、世界に理想を信じる人がいなくなるときだとしたら、ヒーローの誕生は理想を信じる人があらわれたときです。ローガンは子供たちに髭を整えられてウルヴァリンになり、子供たちの危機を救おうと走っていく。なけなしの生命を消耗して、薬で往時の力を取り戻して、銃までも使って。ミュータントの誇りを捨てたような戦いが、ローガンの最後の戦いだった。けれども、ローガンはヒーローだった。

本作は、ローガンがローラを導いたというより、ローラがローガンをヒーローにした話だったと思いました。そして、私たち観客もローガンをヒーローだと信じていたし、ローラを次世代のX-MENだと夢見て終わった。
彼らはアメリカの外に出ていったけれども、X-MENを見てきた自分たちが理想や夢を信じるのならば、まだこの世界に救いは残っているのかもしれません。
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