平和を祈るヒツジくん

ハクソー・リッジの平和を祈るヒツジくんのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.9
『そればかりではなく、患難さえも喜んでいます。それは、患難が忍耐を生み出し、忍耐が練られた品性を生み出し、練られた品性が希望を生み出すと知っているからです/ローマ5:3~4』

第二次世界大戦・沖縄戦で衛生兵として戦う不殺系主人公、デズモンド・ドスを描いた話。
沖縄戦ははだしのゲンの作者が描いた「沖縄戦と原爆投下」とか歴史の本で日本人サイドの情報は知っていたが、アメリカ人視点の沖縄戦は初めて見る。この沖縄戦はアメリカでも「太平洋戦争において最も過酷な戦争」といわれ、戦闘神経症発生比率(PTSDの一種)も朝鮮戦争の20~25%、第四次中東戦争の30%より高い48%と、侵略するアメリカ側も恐怖を植え付けられた戦いだったのだ。

序盤はいきなり話が過去に飛ぶのでちょっと困惑した。それとドスが銃を持たない動機も語られないまま話が進行してたのでわだかまりを感じていた。しかし軍法会議の場面で動機やドスの信念が全部説明されてスッキリした。

「不殺なんてカッコ悪い!」といわれるかもしれないが、僕はこういう不殺系主人公を見習いたい。「るろうに剣心」「ヴィンランド・サガ」と、不殺を貫く主人公の信念は確固としたものがあり、イエス様の道に生きるドスの様なクリスチャンはガンディーの不暴力・不服従のように「戦争に参加するけど銃は持たない」という精神を貫き、忍耐し続けることが求められるのだろう。

『そこで、イエスは言われた。「剣をさやに納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる/マタイ26:52』

後半の戦争のシーンは「プライベート・ライアン」や「硫黄島からの手紙」を思い出した。何方も戦争映画の傑作だ。本作の戦争シーンに出てくる日本人はなんか日本人らしくない。日本語あんまり喋んないし……
しかし制作者の「苛烈な戦争を出来る限り表現してみせる!」という並々ならぬ情熱を感じる。マシンガンや手榴弾が飛び交い、爆弾で仲間の体が飛び散り、艦砲射撃で更に過酷さを極める戦場は生き地獄と呼ぶにふさわしい阿鼻叫喚の世界へと変わる。
あと視点がアメリカ兵視点なので、ドスが日本兵から逃げるシーンはこっちもドキドキハラハラする。実際に戦った米兵は「日本人は死を恐れず、勇敢に立ち向かってくる」と強い畏敬の念を示している。アメリカ視点で見ると日本兵クソ怖い・・・
さっき日本兵が日本兵らしくないと言ったが、牛島司令官が割腹する場面はリアルだった。
ていうかデズモンド・ドスが実在する人物だとは思わなかった。一種の戦場物語だと思っていた。あれだけのことを1人でやるのは余程の忍耐がないとできないだろう。

いまウクライナとロシアで戦争が起きているが、いずれ僕達も戦争に巻き込まれる日が来るかもしれない。「ハクソーリッジ」はこれからの時代を生きる僕たちの教訓になった。