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ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのTrueRyのレビュー・感想・評価

3.6
J.D.サリンジャーの半生とともに、彼の代表作である”ライ麦畑でつかまえて”を如何に書き上げたか、を描く半ば伝記的な作品。

”ライ麦畑でつかまえて”は恥ずかしながら未読なんだが、攻殻機動隊の”笑い男”事件のキーセンテンスとなっており、ずっと気になっていた作品。攻殻で描かれるサリンジャーの特徴や、”ライ麦”内の主人公であるホールデン、が罰当たりな言葉遣いだったり、社会に対して斜に構えた若さ故のエネルギーなどを感じていたのだが、それがこの”ライ麦畑の反逆児”をみて、J.D.サリンジャー自体を投影したものだと気づく。

この映画で描かれるサリンジャーは才気あふれる学生時代を経て、作家として生きると決めた彼を、社会という大人の都合が彼の進む道や、特殊な作家性、そしてその作品の重要な所さえ曲げようとしてくるのに辟易し、そして裏切られ、次第に孤独で孤立した生活に陥っていく。さらに第二次世界大戦の兵役が彼の精神を蝕み、PTSDに悩む彼は生きる意味を見いだせないのだが、彼が信じるもの、をベースにして”ライ麦畑でつかまえて”を書き上げる。

彼のピュアすぎる内面や、それ故に疑心暗鬼に陥ったり、創作に救われながらも苦しむ姿はその独特な感性や感受性によって生まれるのだが、そんな彼だからこそ、独創的な作品を描けたのだろうし、だからこそ、世間とのギャップに苦しむことになったのだろう。そんな彼の生きることの苦しみ、がよく出ている。

若者時代は快活に描かれているので、その後の内向的な姿勢とのギャップが埋まりきらなかったと感じたが、テンポよく描かれており、要点を絞ったわかりやすい展開となっている。ケビン・スペイシーを久しぶりに観た気がするが、なかなか味のあるいい教師役を演じている。若い頃のサリンジャーとのユーモアあるやりとりには心躍らされる。

これでもう1つ、”ライ麦畑でつかまえて”を読まなくてはいけない理由ができたので、しっかりと読破しておきたいと思う。Wikiにて後世の彼が街の人と触れ合っている記載を見て少しホッとした。
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