Yellowman

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのYellowmanのレビュー・感想・評価

3.8
永遠の青春小説「ライ麦畑でつかまえて」を生んだJ.D.サリンジャーの謎に包まれた生涯。

本を読む習慣がある人なら、大半の人は触れた事があるのではと思ってしまう「ライ麦畑でつかまえて」完読せず、途中で投げ出した人も含めて。2003年には村上春樹氏が新訳本を発表するなど、どうにもロマンチストには受けがいい内容だからだろう。
それは、この作品を観れば痛い程伝わってくるニコラス・ホルト演じるサリンジャーの青年期が物語っている。

1930年代のアメリカ。
青年サリンジャーは、裕福な家庭に生まれ、大学を転々としながら漠然と自分は作家だと嘯いては夜の社交の場で、女性を口説いたりしてる完全なモラトリアム青年。だが、その女性に「書いたの見せて」と言われてから、段々と散文を書き上げ始める。本気で作家を目指すようになり、父親の反対を押し切って、コロンビア大学の創作学科に編入して、教授であり、文芸誌「ストーリー」の編集者でもあるケビン・スペイシー演じるウイット・バーネットとの出会いが彼を成長させた。何度もダメ出しを受けて書き上げた短編が出版されたものの、時代は第二次世界大戦。やむなく出兵したサリンジャーに待ち受けていたのは、戦争の悲惨さを目の当たりにし、帰還してからはPTSDに苦しめられる事に。そんな中、インド系の僧侶に出会い、瞑想を始めた事により、悩みと向き合い克服。
そして、執筆に専念する為、山小屋を購入して書き上げたのが、初の長編「ライ麦畑でつかまえて」発表されてから瞬もの間に当時の若者中心に支持されたのである。

この映画では、サリンジャーという人間の斜に構えた部分や、非常にナイーブで、傷つきやすい内面をニコラス・ホルトが巧く表現している。そして、彼の恩師ウイット・バーネットをケビン・スペイシーが実に人間味溢れるキャラクターとして、演じ切っている。
サリンジャーとしてのピークは、「ライ麦畑でつかまえて」を発表した時であって、それ以降の彼は執筆こそ、続けてはいたが私生活は波瀾万丈で、晩年は、人前に出る事を避け、ひっそりと生涯の幕を閉じた。
今作では、青年期から「ライ麦畑でつかまえて」を生むまでの苦悩と葛藤の日々を中心に描かれているが、サリンジャーという人間がいかに孤独であったかを垣間見れる作品である事には間違いない。
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