いののん

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのいののんのレビュー・感想・評価

3.5
映画『ライ麦畑で出会ったら』のレビューでも同じようなことを書いてますが、この1年で私は以下の本を読んでいます。

①『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』柴田元幸・村上春樹 (文春新書)
②『キャッチャー・イン・ザ・ライ』J.D.サリンジャー、村上春樹(訳)(白水社)


高校生の時、野崎孝訳の③『ライ麦畑でつかまえて』を読みましたが、その時には、ただ、読んだというだけ。よくわからなかった。村上版で読み直して、私は初めてその話の面白さを実感できた。これは、ティーンエイジャー限定作品ではない。ティーンエイジャー限定に押し込めてしまうのはあまりにもったいない。世界中で支持されてきたのもよくわかると思った。世界中の多くの人が、このように思う。(それは刺さる人にだけだけど) これは俺の物語だ。ホールデンは俺だ。なぜサリンジャーは俺のことがわかるのだ?



さて、この映画は、私が読んだ本①から考えると、かなり事実に忠実であると感じます。そして、この映画の魅力は、なんといってもスコラス・ホルト! スコラス・ホルトは大変美しく、サリンジャーが持つ無垢さを体現していました。


サリンジャーが持つ無垢さ、途惑い、混乱。戦争体験をいつまでたっても過去のものとさせることができず(とても壮絶な、しかもほとんど無益な戦闘に参加。サリンジャーはこの戦争体験を、直接的に小説にすることはできなかった)、心が痛むままで抱え続けるその苦しさ。楽な方へと生きることを拒絶する姿。名声も賞賛も拒絶。ニコラス・ホルトが、そのようなサリンジャーを演じることで、サリンジャーの意に反して、彼が伝説化されていく過程を少し理解できた気がします。それから、ケヴィン・スペイシーが出てくると、美しいニコラス・ホルトになんかしてしまうんではないかと心配になりました。これぞ、ざ・偏見。いけません、私。
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