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終身犯のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

終身犯(1962年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

主人公の終身犯ストラウドは、他人への対処の仕方、付き合い方が下手な男ゆえに、結果だけで世間から悪人と見なされてしまう不幸な男。獄中でスズメやカナリヤなど小鳥の飼育を始め、その生態研究に励み、カナリヤの熱病の治療法発見へと能力を発揮していく…。

「大列車作戦」などの娯楽活劇や「OK牧場の決斗」などの西部劇など、本作の主演であるバート・ランカスターはアクションヒーローやタフガイのイメージが強い。
「終身犯」という邦題から、てっきり脱獄モノか?と思って鑑賞したが、良い意味で裏切られた。

終身刑を宣告された囚人でありながら、獄中で鳥類の研究を続け、鳥類学の権威となったロバート・フランクリン・ストラウドの実話をジョン・フランケンハイマー監督が映画化。
硬派な社会派ドラマであり、渋い人間ドラマの秀作である。

ランカスターは、怒りと陰うつさをにじませながら、実在の犯罪者ロバート・ストラウド役を演じている。
ストラウドの生育歴は語られないが、母親の写真に触れられると怒りを露わにする辺り、かなりのマザコン。
シングルマザーの家庭で屈折して育った背景が読み取れる。
ストラウドは服役中に遠方から面会に来た母親を追い返した看守を殺し、死刑宣告を受けるが、母の必死の懇願で終身刑に減刑される。

嵐だったある日、ストラウドは運動場で寒さに震えるスズメの雛を拾い、看病し始めたのが彼の転機となる。
たかがスズメ一匹と看守も飼うことを許すが、それが全ての始まりだった。
そこで見る者はストラウドがもともと自分を制することが出来ない人間なのだと分かってくる。
人を殺してしまったのは、自分では怒りを止めるということが出来ない、つまり最後まで完徹する人間なのだ、と。

哀れなスズメに自分を重ねたのか?
何とか助ける方法はないか?と独学で勉強するストラウド。
今度は知的探究心が止まらない。
隣りの独房の囚人もカナリアを飼い始め、病気になると新薬を開発、さらには本まで出版してしまうのである。

ストラウドは、彼の本を読んだ愛鳥家の未亡人ステラと出会い、ステラはストラウドの治療薬を販売。
そのパートナーシップが恋から獄中結婚へと進展する。
やっと人間性に目覚めたストラウドはアルカトラズ刑務所へ移送され、ここでの囚人の扱いに疑問を抱いた彼は刑務所改善の論文を発表する。

フランケンハイマー監督は実話をベースに、人付き合いの下手な囚人ストラウドの長きに渡る刑務所生活を抑制の効いた演出で淡々と描く。
カメラもストーリーも決して彼から離れることがない。

傷を負ったスズメを治療したことをきっかけに、自分の素質に目覚めるストラウド。
その後、彼は鳥類についての研究で国際的権威となるのだが、「人間には別の側面がある」「人生はいつでもやり直せる」というメッセージが感じられるのが良い。

人間は、例え終身刑を言い渡されるような罪を犯した人間であっても、才能を開花させる環境があれば他人の役に立つことが出来、自己有用感を得ることができる。
ストラウドの人生はある意味で幸運だ。

しかし、残念なのは「才能ある人間なのだから、そんな酷い仕打ち(死刑や終身刑)にすることはない」というリベラル派特有の考えが透けて見えることだ。
ストラウドの業績を美談として描き、彼が可哀想だと思えてくる。

ストラウドの母親がステラに嫉妬して「私を捨てるのね」と子離れできない毒親であることを明かすのも、アルカトラズで研究を禁じられるのも、ストラウドが一層不憫に感じられる。

しかし、ストラウドの犯した殺人の被害者家族の心情は描かれない。
これはフェアではないだろう。
やはり、犯した罪に対して罰を受けるしかないのだ。

タフガイのイメージが強いバート・ランカスターは静かなる熱演を見せる。
触る者皆傷つけるような青年期から、森羅万象を悟った仙人のような老年期まで、何十年もの時の経過も年齢の重ね方も記録映像かと思うほど、ごく自然だ。
特に一度も触れることなく、他の人生を探せと、幸せを願っての妻ステラとの別れは涙無くしては見られない。

また、助演の演技も良い。
隣の独房のお喋りな囚人役のテリー・サバラスや、次第にストラウドの理解者となる看守役ネビル・ブランドも人間くさい味わいがある。
個人的にはカール・マルデン扮するアルカトラズ看守長が罰則主義を振りかざしていたのに、刑務所内で待遇の悪さに怒った囚人たちの暴動を治めたストラウドに「彼を信じる」と呟くシーンがグッと来た。
長年の誠実な行動は、敵対する人間の信頼をも勝ち取るのである。

アルカトラズから別の刑務所に移送される所で映画は終わるため、厳密な意味でのハッピー・エンドではないが、最悪の環境を出て、人間の尊厳を取り戻したかのようにマスコミの取材に答えるストラウドの表情は極めて晴れやかだ。

身体は監獄に拘束されているのだが、思考と知識はいくらでも伸ばすことができる。
「自分を変えれば、世の中が変わる」
恐らく、それが本作の最大のメッセージだろう。
「籠の鳥」となった男が、思考だけは自由を得て、その業績は世に羽ばたく。
派手な映画ではないが、何とも数奇な運命を感じる人間ドラマである。
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