笹井ヨシキ

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガールの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

大根仁監督最新作ということで鑑賞して参りました。

大根監督の作品は大体鑑賞しておりその中で好き嫌いもあるのですが、今作は監督らしいポップな語り口で仕事と恋愛を中心とした成長物語が生き生きと、そして苦々しく描かれていてとても面白かったです。

大根監督作品で好きな映画は「バクマン。」なのですが、あの作品でもあった「好き」という気持ちを過剰なポップさで見せきるセンスが今作でも光っていて、冒頭でコーロキが奥田民生が好きになった経緯がアニメで語られるシーンでは、ノスタルジックな語り口で「好き」という気持ちがウソっぽくならないように過剰さを抑える工夫がなされていて手際の良さを感じました。

あかりとの恋愛に耽溺していくシーンでも奥田民生の楽曲をバックにMV的に見せていく演出では、「あかりとの恋」と「奥田民生の楽曲」が混ざり合って生まれたドラッグ性を存分に味わえるし、ベッドシーンでは文字通り「溺れていく」感覚が表現されており、素晴らしかったです。

話の方も「モテキ」で自分が感じていた違和感が解消されていたと思います。

「モテキ」って間違いなく面白い作品なのですが、社会的な自立、及び自身を持つ事こそが意中の女性を守り、モノにする地に足のついた方法だと学び成長したはずの主人公が、結局最後の最後で仕事をほっぽって幼稚な本能に身を任せてしまうラストに、感情にドライブしていく意図は感じつつ自分は乗れなくて、「それでいいのか」感を拭えなかったのを覚えています。

しかし今作ではコーロキは編集長に叱責されたことで仕事と恋愛を両立させるために奔走し、遅筆のコラムニスト・美上を全力でサポートする展開が用意されており、「モテキ」へのアンサーのように感じて、主人公への感情移入がより深く出来ました。

大根監督の作品は仕事と恋愛の相関関係を強調してきましたが、「バクマン。」や「SCOOP!」のように、仕事を第一に頑張らなければいけない故に恋愛に邁進できないもどかしさを抱えた主人公に自分は共感を覚えるんですよね。
「モテキ」の時は終始主人公にイライラしてしまったので、今作のコーロキはとてもキュートに感じて好きでした。

あかりを演じた水原希子も素晴らしかったですね。
元々自分は結構好みのタイプなのですが、日本人離れしたルックスにファムファタールとして訴求力が充分にあったし、人によって違った一面を見せるコミカルな感じも良かったです。

彼女は複数の男に色目を使い、自分への批難を相手の責任に変えワガママを押し通すタイプの典型的クソ女なのですが、一概に彼女が全て悪いかというとそうではなく、
例えばコーロキと有機野菜を買っているときに見せる本当の自分を相手に知ってもらえないことにイラ立ちを見せるシーンでは、都合の良い恋人像を勝手に作り出し信じて疑わない男の愚鈍さに諦観し、本当は誰も彼女に興味がなく理想を体現する媒介としてしか利用されていないと悲哀を感じさせ、その溜飲を下げるために男たちを弄んでいるのかなと思いました。

終盤でコーロキがあかりに「本当のお前は何なんだ」みたいなことを言う展開も、あかりにとっては遅きに失した愚問であり、本当に彼女の事が好きなら彼女が何者なのかすぐに知ろうとすべきで、自分は男たちよりもあかりの方を可哀想と思ってしまいました。

ラストシーンも非常に味わい深く、コーロキが奥田民生のように「自然体」であるかのように見せる術をあかりとの恋愛で学んで「しまう」ビターな味わいが良かったですね。

奥田民生のように力まず自然体で居たいと力んでいた頃のコーロキは実は一番自然体であり、誰かに憧れ、好きな音楽を聴き、好きなものを食べていた過去の自分を見つめ、その頃の自分がかけがえなく、そしてもう戻らないことを悟って号泣する妻夫木聡の泣き演技は、「怒り」とはベクトルは違いますが素晴らしかったです。
荒波にもまれ続けるコーロキを映したエンドロールは、予告編だとギャグっぽかったですが、こんなにも成長してしまうことの苦さを味合わせるシーンだとは思ってもみませんでした。

あえて細かい不満点を挙げるとするなら、大根監督の「オシャレ感」「サブカル感」があまり良くわからないところでしょうか。
冒頭のコーロキの歓迎会の時に、好きな音楽の話になった時、奥田民生と答えたコーロキに対して周りが白い目を向けるシーンがありますが、あれっていくら何でも「意識高い系」のイメージがザックリしすぎじゃないですかね?
「編集長が邦楽聞くなんて・・・」とかほざいてましたけど、「意識高い系=洋楽しか聞いてない」なんてのは一昔前のステレオタイプなオシャレ感であり、今は邦楽、洋楽やジャンルの別なく評価できる人が本当の音楽好きだと思います。というかアイドルや声優の名前で白い目向けられるならまだしも、奥田民生の名前であの反応ってのはちょっと現実にはあり得ないと思いました。

あとコーロキの年齢は30歳くらいと言っていましたが、それまでの恋愛遍歴はどうなっていたのか気になりました。これがもっと若かったり、「モテキ」のようにほとんど恋愛したことない設定だったらわかるんですが、少しでも恋愛経験があるならコーロキがあかりに寄せる想いはウブすぎる感じがしないでもないです。まあそれだけあかりが魅力的っていうことなんでしょうが、若干の飲み込み辛さはありましたね。

あと松尾スズキがまともな役で出るわけないのでストーリーに意外性はないとか、終盤の回想はクドいとかありますが、最後の最後で自分の好きな松本まりかが出てきたのが嬉しかったので良しとしましょうw

評判は芳しくないようですが、大根監督らしい演出の冴えと大根映画的「成長」の核を感じ取れる作品でした。
次回作は自分も大好きな「サニー 永遠の仲間たち」の日本リメイクに挑戦するそうなので、絶対観に行きたいと思います。
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ