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PARKS パークスのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

PARKS パークス(2016年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

 井の頭公園100周年記念で制作された映画。当時友人に勧められたがイマイチ気が乗らず見なかったことを悔やむ。めちゃいい映画!井の頭公園をのびのびとかけていく主人公たちと幾つもの時間。過去と現在が入り混じり、妄想幻想入り混じり、居心地が良い公園のような映画だった。

 冒頭始まってのテンポの速さ。編集ももうちょっと見たいと思わせる二手ぐらい先にカットがかかっていき、パッパと進んでいく。多角的にカメラも変わって演者を写すので、ある意味ズタズタなんだけど、彼らのライトな演技と相まったライトな編集で相性は抜群。細かいやり取りはこの際関係ない!と思わせる勢いに次第に飲み込まれる。

 役者のかわいさや、わちゃわちゃしたやりとりが微笑ましい。主役3人は容姿端麗なだけでなく、どこか抜けてる点があってよい。また出会ってから一切の壁なしに仲良くなっていく人間関係が眩しい。アメリカばりに知らん人に声かけて、またそれに快く応える人々、まさに理想とするような人間関係。突然のミュージカルシーンで通行人が踊り出すことが違和感ない世界だった。

 こうした「逃げ恥」みたいにいろんな妄想の世界線が入り込むの、今じゃ常套句化してきているが、非常に巧みに演出していたと思う。画面が横にスライドして時系列をつなぐワイプっぽい表現も、画面内の人物が視線を新たな画面に向けることで、時代を超えた視線のやりとりが起きる。過去の井の頭公園がセピアカラーで映し出されたと思ったら、次第に色が復元され現代に戻るというワンカットも巧み。公園という場が変わっていないことと、そこに長い年月を感じさせる。また、過去に現在の人物が登場するという「千年女優」方式も随所に見られる。そのシーンそのシーンでも映像表現を使い分けていたり、単にPV的だったり既視感で終わらない効果があった。

 過去に忘れられた父と恋人の物語を追う、という愛の物語。かれら主役たちの姿は現実というより、後世に継ぐ理想の若者像だと思った。オープンリールに興奮して、昔を懐かしみ想像してくれる理想の若者たちだった。そして、そんな過去から新しい曲をつくるという、いたって普遍的な芸術のあり方であり、しかし見落としがちなリスペクトの気持ちや模倣して学ぶ意味がここにはしっかり伴ってあるのではないだろうか。ハルはそのままであることを好んだが、純とトキオは新しくして広める方を選んだ。芸術における保守派と革新派の葛藤すら描かれている。

 また公にするか個人に止めるかという問題もあげられていた。最終的にうやむやだった感は否めないが、これは容易に解決できることじゃないなと思う。ジャームッシュが「ナイト・オン・ザ・プラネット」や「パターソン」なんかでも、この公にするかどうかを描いていた。彼は一貫して、人々の営みを奪うくらいなら公にしないで個人で大事にするべきという態度だ。しかし、そういった態度でも、映画という複数の人に見せなければ結局彼らの営みは明かされないわけで、非常に苦しい矛盾がある。誰のために歌うのか、ハルのため、ハルの父のため、それ以上の人たちのため、自分のため、、、。この前見たテレビでやってた「ボクらの時代」で、あいみょんが人の為に歌を書いたことは無くって、今の芸術は受け手におもねりすぎだと話していた。最終的に自分の為に歌う、しかし、自分の為になれば誰かのためにもなるだろうと自分は考える。それを公にするかどうか、そこには正解はないだろうな。

 今作品には、未来を予知するという、まるでジョジョのエピタフのようなシーンがある。映画という一方通行の時間軸の中で未来に追いついていく現実という複雑な構成がここでは展開されている。そしてその予知された未来に現実が追いついた時、観客はそこに流れる映像と実時間を共にするような感覚に陥る。そして、まさに今そこにいるような感覚の中、音楽の完成がされていくのだ。コツコツ制作していく過程を映すのではない、今まさに純が歌い出してできあがっていくような感覚。音楽は芸術の中でも今まさにそこで生み出されるもので、その興奮がここでは最高潮になる。ミュージカルあり、いつの間にか伴奏も完璧。実際に物語内で音楽が完成されたのかはわからない。ただ、純が第四の壁を越えて観客に向かって捧げた歌といってもよいかもしれない。物語内では公になっていないであろう曲を、現実の観客に虚構の枠を越えて届けるという、エモさ(同時期にラ・ラ・ランドが公開されてる偶然!)。

 ラストが意外にビターというか、結局現実に立ち返っていく、いかざるをえないというのがシビアだった。結局、純はハルに再開しないとうシビアさ。そこは理想的にハッピーに描いてほしいとさえ思ったが、映画という虚構さえ理想を貫くのが厳しい時代なのだろうか。随所に挟まる妄想も妄想なわけで、虚構にもあるれっきとした現実がドカンと座っている感がある。居酒屋で友人のリサを交えた会話の視線とかもかなりリアルに嫉妬やらの感情を伺えるシーンだったし。あと、いざ決まったライブで失敗するあたりもシビアだし。それでも、全然しょげるような映画ではなくて希望的で愛のある映画だと思った。
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