「サンダーボルト…」
おれが呟くとケンジが急に歌い出した…
薄情そうな顔の車
薄情そうに左折する
バスを待とうか 歩こうか
秘密がひとつ 増えました…
「お前が歌うとや!って感じやね」
「クロマニヨンズの『サンダーボルト』…やっぱ名曲やなぁ…ヒロトさんの歌詞はやっぱヨカなぁ」
「確かにヒロトさんの歌詞が素晴らしかとは認めるけどくさ、おれが言いたかとは映画!映画の『サンダーボルト』たい!」
「お任せを大佐!必ずやサンダーボルト宙域の悪夢を討ち取ってご覧に入れます。」
「なんやそら?」
「ジャズと飛び散る血…『大人ガンダム』と呼ばれたサンダーボルト…イオさん…知らんとや?」
「おれが言うとんのはイーストウッドとジェフ・ブリッジスのサンダーボルトたい!」
「ブリッジスさんちゃ『クレイジーハート』でうとうとった(歌ってた)人?」
「お~!渋い映画ば知っとーやなかか!…」
「これもやっぱ…イーストウッドさんの監督?」
「いやこれはマイケル・チミノ監督のデビュー作やなかったかいな?1970年代…」
「チミノさん?」
「裏のおっさんみたいに言うな!…ディア・ハンターの監督たい…天国の門でおおこけして映画会社ば潰した大物ぜぇ」
「どげな映画?」
「ポスターにキャノン砲が描いてあるけん…派手なアクション映画かと思ったら…なんと犯罪者二人のバディものでロードムービーやった…あの頃山ほど作られたアメリカン・ニューシネマの傑作ぜぇ!」
「ニューシネマ?」
「なんか全編…自由を謳歌するアウトサイダーがとにかく楽しくて楽しくて多幸感に満ちとっちゃけど…突然ズバーンって断ち切られるごと終わるったい…この手の映画は…」
「アメリカン・ニューシネマ…」
「今観るとメチャ理不尽な感じもするっちゃけど…当時は当たり前やったね~」
ケンジが唐突に…ヒロトさんの歌の続きを歌い出した…
サンダーボルト 呼んでみたけど
名前のように 呼んでみるけど
サンダーボルト 稲妻でした
二度と会えない 稲妻でした