皿鉢小鉢てんりしんり

狙撃者の皿鉢小鉢てんりしんりのレビュー・感想・評価

狙撃者(1952年製作の映画)
3.8
噂に違わず面白い。狙撃シーンがどれも非常に工夫されていて、最初はガラスケースに入った自分のポスターを見ている女が、観客の思うタイミングよりずっと早く射殺される(撃った衝撃で壁に叩きつけられガラスが割れるのも見事!)、2人目は窓の外から動きをじっくり撮り、どこで来るのか全くわからないタイミングで突然銃声のジャンプスケア(普通に飛び上がった)、3人目は犯行を描写せずに警察サイド視点で駆けつけて死体現場シーン、最後は遠くに見える煙突工事の男を超ロングショットで射殺(当然黒沢清の『回路』が思い起こされる)、狙撃者の映画ならもうこれができてる時点で完璧でしょう。
遊園地のシーンも白眉で、観覧車でイチャつくカップルに憎悪を募らせながら、射的全部命中させるあの勢いとか面白すぎる(射的全部当てる人やばいって演出、座頭市でもやってたような……)し、何よりその後のボールぶつけゲームが秀逸。
ボールを的に当てると、隣に女が水に落下する(のを面白がる)という意味不明なアトラクションで、女は役柄的に挑戦者を煽りまくるという芸をやっているのだが、完全に憎悪を剥き出しにしてボールを的に当てまくる主人公を見ているうちに、だんだんと煽り芸どころでなくなり血の気が引いていってる、のが伝わる水中落下無限ループのショットが神がかっている。で最後は的ではなく女ボールを投げつけて絶叫、というオチ、ほんと気が狂ってる。
社会派としてもなかなかよくできていて、狙撃者のニュースについて話す職場の男たち、の方がいかにも“普通のミソジニー”に溢れており、ほんとに問題あるのって、かなり特殊な一人の病的な主人公よりも社会に蔓延しているこっちですよね、と言わんばかり。片方がマスコミの報道に文句をつけ、俺が犯人をやっつける!、とか威勢のいいことを言うのだが、まあSNSを開けばゴマンといるある種の人たちそっくりで、ほんと普遍的なんだなぁと……
サスペンス映画お馴染みのアイテム、“犯人の書き置き”というのは普通書き置かれているものが発見される形で登場するが、なんと今作、犯人が書き置いている手元を一言一句全部撮るといういたって珍しい描写がある。どう思えば良いのかはよくわからない。
あと字幕に訳されてなかったけど、アルバート・フィッシュがこないだ捕まった人、みたいな文脈で会話に登場していて衝撃的だった。
アルバート・フィッシュがこないだ捕まった時代が今目の前に映っているんだというだけで、ちょっとゾッとするものがある。