小

ポバティー・インク あなたの寄付の不都合な真実の小のレビュー・感想・評価

3.9
発展途上国への自己中心的な援助が、結果的にその国の産業の育成を妨げ、以下のような構造に陥っているということを、明らかにするドキュメンタリー。

【途上国の産業が育成されない構造】
先進国が国際競争力強化のため補助金を付けて穀物を大量生産→穀物の余剰発生→穀物を途上国へ無償で提供(援助)→途上国の農家が廃業→途上国は先進国の穀物販売市場に

【お金を援助しても途上国に残らない構造】
先進国がお金を途上国に援助→途上国が開発案件を先進国の企業に発注→先進国の企業は途上国企業を下請けに→途上国に残るお金はわずか

結局、途上国の貧困問題は、援助する側にとっては「貧困産業」となっている。

途上国に本当に必要なのは、自国の国民が働いて賃金を得るための生産能力と、モノを売買するための国際的な取引関係への参加なのだ。援助は必要だが、それは途上国が自立するための準備に必要なのであって、産業育成を妨げるような援助はむしろ有害なのだ。

つまり、援助する側は、単に物資やお金を出せば良いのではなく、その援助が途上国にどのような影響を与えるのか良く考えなければならない、というのがこの映画の言いたいこと。

援助をする側の思い込みは、次のようだろう。①途上国は貧困から子供がやせ細り、たくさん亡くなっている、②途上国は木も川もない劣悪な環境で、教育水準も低いから、モノを作ることが困難、③従って物資や資金を貧困問題が解決するまで援助しなければならない。

劇中、ミュージシャンなどのセレブたちが、呼びかけ、歌にすることで、こうした思い込みが次の世代にも引き継がれてしまうことが指摘されていた。

援助することは一般的に言って良いことだけど、援助する側が、「途上国は自分達の力では貧困から抜け出せないから援助が必要だ」と考えているのであれば、そこには援助する側の優越感が潜んでいる。

援助によって、いつまでたっても自立に必要な生産能力が備わらない途上国は、劣等感を払拭できない。途上国の人は永久に援助し続けて欲しいとは思ってない。途上国は自分自身の力で生産し、産業を育成していく潜在能力があることが描かれている。能力を生かして早く自立したいのだ。

援助する側は、援助される側と対等な関係にあることを忘れてはならない。援助する側は、援助される側の尊厳に配慮し、途上国が自立していくうえで役立つような援助になっているか考えて援助しなければならない。

途上国自身には権力が世襲され、「法の支配」が実現しておらず階層が固定化しているといった問題点もある。所有権の概念がはっきりおらず、持たざる者が土地を所有することは困難で、企業を経営する能力があっても担保がないからお金を借りることができないことも、産業育成の阻害要因となっている。

とはいえ、貧困から抜け出せない途上国の最初のボトルネックは先進国の援助である。途上国は援助が必要だし、援助することは立派なことだ。だけど、お金を出す前に良く考えて欲しい、ということが繰り返し述べられる。

多くは現状の援助の在り方に否定的な人達のインタビューだったけど、援助する側の言い分ももう少し拾えれば良かったかな。「だったらどうすれば良いの?」という感覚を持つ人にとって、こうした問題の背景に潜む何かがイマイチ良く見えず、「援助、ひどいね」とか思って終わってしまいそう。

でも、この映画のテーマの根本的な部分は日々の生活にも当てはまる。人に親切にすることは無条件に良いことだと思っていないだろうか。親切をされる側の立場になって考えているだろうか。仕事をするとき、考えることをサボって大きなムダに時間を費やしていないだろうか。

いろいろなことを知って考える力を養い、考えて行動することが幸せに生きるための秘訣。この映画を観ると、改めてそのことを思う。
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