垂直落下式サミング

西遊記 孫悟空 VS 白骨夫人の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

西遊記 孫悟空 VS 白骨夫人(2016年製作の映画)
3.9
原作準拠なのがよかった。白骨夫人が得意とする死体を残して魂だけになって逃げる術のせいで、悟空は三蔵に人を殺したと何度も勘違いされてしまう。白骨夫人の回は、牛魔王や金角大王と銀角大王ほどは有名なエピソードではないから、本来のストーリーに近いかたちで映像化しただけでうれしい。
西遊記のおもしろさは、孫悟空にはなんでも万事解決できる実力があるのに、師匠である三蔵法師が勘違いしたり癇癪を起こしたりして足を引っ張るせいで、さっさと神通力でねじ伏せちまえば簡単な妖怪退治がえらく難航するところ。
玄奘三蔵は、悟空に何度も命を救われているのに、勘違いして緊箍児を締め付ける。ここのパワハラっぷりは最悪。でも、無闇矢鱈に殺生はなりませんって意味では、仏の道のなん足るかを説いているので、あながちクソな師匠ってわけでもない。わからず屋のムカつく理想論者を、守ってこその仏の道である。
日本で作られる西遊記コンテンツでの三蔵法師は、よく騙されるエピソードから「お人好し」の部分にだけフォーカスした人物解釈をしている場合が多いが、本作では「実力の伴わない無能の癖に精神論を並べる横暴で怒りっぽいマヌケ」として描かれた姿がみられる。夏目雅子や深津絵里よりも、こちらのほうが原作に近い。
幾度もひどい目にあっているのに、メチャメチャわからず屋でバカな三蔵法師なもんですから、お供たちはコイツの機嫌の取り方をわかってくることで、旅を円滑にすすめるようになる。
原作の初期悟空は、野盗の集団が絡んできた瞬間、瞬く間に棒で打ち殺す野蛮猿だったのだけれど、紆余曲折あった後期悟空は、同じ状況でも変化の術で化けて驚かして追い払うとか、騙しとられたものを師匠の目を盗んでカツアゲし返しに戻って、後でしれっと荷に戻すってことをするようになるくらいには丸くなる。偉い人の顔色うかがってへーこら、これが悟りってやつらしい。ホントかよ。本来は道教のはなしなのに、なんか儒教っぽい説教臭さが散りばめられてんだわね。
実は少女誘拐事件の黒幕は白骨夫人ではなく国王で、ニンゲンも妖怪に負けず劣らずの邪悪であると、現代的な解釈もなされている。
悪事をあばかれた国王様が逆ギレして「猿の護衛がなければお前などとるに足らぬ若造だ。」って三蔵に悪態をつくのだけど、彼は意に介さずに囚われた少女たちを救う。
徳を積むのではなく、善行を積むこと。仏の道を見る前に、人の道を違えぬこと。なるほど。コイツが取経の役を任ぜられ、三匹の妖怪の師匠たりえる理由はこれ。この人となりに他ならないのだろう。