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ガザの美容室のNMのレビュー・感想・評価

ガザの美容室(2015年製作の映画)
3.8
女性たちの世間話を通してガザの情勢がわかる作品。
深刻ながらも時々シュールなおかしみにあふれていて観やすい。
これが超特別な一日、というよりはよくある普通の日なのだろうことが悲しい。

この地域は男性が非常に強いので、多くの女性は様々な夫や恋人にかなり苦労している。
電力は不安定、クスリもまん延。
ライフルを持った過激組織が闊歩し、女性は道もろくに歩けない状態。この日はライオンを連れ回す者まで。
かといって離縁も楽ではない。宗教上のハードル、そしてそもそも女性が一人で食べていくのが相当難しそう。戦時下で職など得られないだろうし、生活の様々な場面で男性の協力がないとたち行かないことが多々。
男性が過激組織に属するのもまともな職と安全がないからだろう。


美容室のある一日。
今日はなかなか個性が強めの女性が集まっているようだ。
店は多くないだろうし、外出のチャンスも少ないだろうから、みないらつきながらも自分の番を長時間待つ。
結婚式前とか出産前とか、今日綺麗にしておきたい客ばかり。明日ではだめなのだ。

すっかり夜。
それぞれ事情を抱え、外では銃声が聞こえ停電も復帰せず、みな気持ちが苛立ち緊張感が高まる。さながら密室サスペンス。

激しく爆発音も鳴り出し、全員外に出られなくなった。
店の外では激しい殺し合いが行われ、店内は締め切ってみな汗だくのまま施術は続けられていく。
空想話をしたり、取っ組み合いの喧嘩を始めたり。

「ロシアに帰れば?」「どこも同じよ」というやり取りが印象的だった。
安全が保証されている場所は、思うよりも世界に多くないようだ。

男たちが始めた戦争。男たちは死んでいく。残った女たちはそれでも生きていく。

私たちだったらさっさと出て帰りそうだが、この人たちは娯楽や生きがいはとても貴重であり、まあ別の機会にやり直してもいいかとか、仕方ないから結婚式でも出産でもいつも通りでいいかと気軽に思える私たちとは、状況と価値観が大きく違う。
戦時下でも命がけで美容室に来るには深い理由がある。ただ綺麗になりたいだけではないようだ。
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