真田ピロシキ

ガザの美容室の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ガザの美容室(2015年製作の映画)
3.6
意図しようとしていることは分かる。ガザ地区にある狭い美容室の室内劇として、そこにいる女性たちからハマスではない平凡な人々の営みを映し出し、今バイデンやマクロンが「イスラエルに連帯する」という卑劣な名目の元に非人間化されているパレスチナのアラブ人を人間にする。そこにいるのは皆女性。男性はいないので、記号化された抑圧されるイスラムの女性ではなく、セックスやドラッグにあけすけな人がいれば隣の人は信心深かったり、夫がろくでなしのマフィアで当人にはっきり文句を言ったり、ロシアから移ってきた人もいる。最後の人は「ロシアに戻れば?」と言われるのだが、今のロシアも最悪なのは言うまでもないのでこの人はあまりに可哀想だ。

政治ニュースを煩わしいから消させるところに大きな政治の話を主題にしない意図を感じられるが、日本じゃないので"ノンポリ"という政治的態度を取るはずがなく、序盤で店に度々当たるサッカーボールはイスラエルからの攻撃のメタファーだろう。ライオンは封鎖しているイスラエル兵士?停電がスケジュール化されている状況に普段から不自由を強いられていたガザ地区を知られ、ハマス以外にもたくさん挙げられる組織はガザ市民が如何に政治に振り回されウンザリしているかを窺わせる。日本に住んでいるとイスラエル建国のあらましとそれに続く対立以上のことはなかなか伝わらないので、こういう映画はありがたい。

問題はあまり面白くない。何せ室内劇という動きに乏しい限定された状況で話を語らなければいけないのだが、登場人物の平凡さが仇になって井戸端会議をずっと聞いているようで退屈。タランティーノみたくとは言わないにしても、もう少し何かないと厳しい。義務感で映画を見るのは大変。これならドキュメンタリーの方が良いんじゃと思う。それでもこれで今起きていることに対して元凶のくせに偉そうな西欧諸国のプロパガンダに疑問を抱けるなら良いかと思う。アメリカの言うことなんか信じるな。大量破壊兵器はなかったんだからな。