るる

アリータ:バトル・エンジェルのるるのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

原作未読。ずっと、それこそ20年くらい、ジュウムだと思っていた、ガンムなのね。童夢とも混同してる。原作読みたいのに、どのシリーズ、どのバージョンを入口にして読めばいいのかわからねえ、Amazon見てもよくわからねえ、書店にも並んでねえ、つらい。改めて、好奇心と意欲のある20代のうちに『攻殻機動隊』にアクセスできたのは奇跡だったな…いやまだ頑張りたいぞ、余裕できたら整理して挑戦する…

3Dで。ピントが合わなくて若干酔ったけど、あの繊細な機械仕掛けをじっくり堪能できたのは良かった、
スターウォーズで繰り返し描かれる、切断される腕、機械の腕、
機械の身体を着替える女、『エクス・マキナ』、
ダナ・ハラウェイのサイボーグ・フェニミズム、攻殻機動隊、
士郎正宗、押井守、四谷シモンの球体関節人形…などなどなど、
連想できて、感慨深くなったりした。

でもやっぱり終盤にかけて楽しみが減っていったかな…アクションは良かったんだけど。

久々にワクワクできるアクションの連続だった! 12歳の私が喜んでた。アメコミ映画でこれが味わえたらなあ…と思ってるんだけど、
アメコミじゃないところに映画の面白さはあるんだよ!ってなスピリットも感じた、
なにせスターウォーズep1が原体験にあるので、今作のようなSFアクションは楽しかった、見せ場としてのレース描写にはそろそろ苦笑するようになってきたけれど…モーターボール、実況にもう一工夫ほしかったよな
さておき、やっぱり白兵戦が好きだな、あの臨場感…やっぱりCGやアニメのほうが、無茶な角度からの絵が撮れたりするのかしら。

アリータの最初の、夜道での戦闘シーンで『アップルシード』を彷彿として、音楽がブンブンサテライツだったら…! 菅野よう子だったら…!と気付いてしまって。サントラが魅力に欠ける…!と気付いてしまって、ちょっと残念だった。音楽! 大事…!

それにしてもアリータの魅力がハンパなくてびっくりした。あの大きな目、静止画で見たときは惹かれなかったけど、動くとちょうど良かったから不思議だ。あの表情、喋り方、全部、すごいね。そこまでセクシーさを感じずに済んだ点も見やすくて良かった。一方で機械の身体にエロスとタナトスが確かに垣間見えたので個人的には良い塩梅。

老人と少女型ロボットの擬似父娘関係、ピグマリオン・コンプレックス、手塚治虫までいくと画風も相まって古典的な様式美、とはいえロリコンの正当化を思わせて基本的に苦手なんだけど、
アリータの大人っぽい声のおかげかな? いやらしい感じが全然しなくて、びっくり。こうすれば良かったのか、という発見があった。

12歳の頃に出会えてたら、アリータ、大切な友達、私のヒーローになってたかもしれない。いやどうかな。機械の身体を取り替えて、黒人看護師に「大人の女性ね」と言わせて、父親との接し方が変わったあたりで、ちょっと気持ちが引いちゃったんだけど
(しかし、成長した娘が父親の恋人化するのではなく、ちゃんと父離れに繋がっていって安堵した)(一方で、少女が父離れするための道具として使われたかたちのヒューゴの存在が皮肉だった、少年の成長のためだけに存在し利用されるステレオタイプなヒロイン像に通ずる…新しいステレオタイプを見た気がした)

なんにせよ、アリータが現れたことで、世界に希望の総量が増えた気がしたんだよな。大げさかな。でも絶対、これ見てテンション上がってる女の子がこの世にいるはず、戦闘シーンを繰り返し脳内再生してる女の子がいるはず、と思って、久々に嬉しかった。生身の俳優じゃないぶん、個人的な思いを仮託しやすい、感情移入しやすい存在としての、非実在のCGキャラクターっていると思うんだよな。実在しないからこそ気兼ねなく、応援したい、ではなく、ああなりたいと思える。

機械の女と触れ合う生身の人間、そして本物の犬と触れ合う機械の女、モーションキャプチャーの賜物だろうとはいえ、あの違和感のなさ、見たことがないと思って、映画史に残る映像…と思った。ちょくちょく腕が短く見えたり、歩き方がぎこちなく見えたりはしたけど。かっこいい女ヒーローだった。確かに生きて、そこにいた。素直な驚き。

一方でヒューゴに全然魅力を感じなくて、そんな自分にびっくりした。アリータという魅力的なアンドロイドの相手役が、イマドキ、白人の男の子なの?と思っちゃったんだよな、これって人種差別的かな…

でも、アリータを拾ったのが白人の老人で、アリータに世界を見せるエスコート役兼恋の相手役が白人の男の子、という図を見て、彼女をお前らのおもちゃにするな、と思っちゃったんだよな、あまりにも昔ながらの映画の構図じゃねえかと。
『ゴースト・イン・ザ・シェル』後の現在、ということも頭にあったかも。グロテスクに見える一歩手前だったと思う。
ヒューゴのキャスティングは「より人種的に曖昧な人物」を求めて彼に決まったとWikipediaにあるけれど、批判されたときの逃げ道を求めたようで姑息というか、純粋な白人ではないから選んだなんて、俳優に対しても失礼な話じゃないかと思った。

90年代〜00年代初めの海外ドラマを彷彿としたという意味では懐かしさもあったけど…戦う女の子と、彼女をサポートする有能な男の子の図が好きだったな、と思い出したんだけど、ここまで主人公の足を引っ張る、ステレオタイプな意味でヒロイン化された男の子には惹かれず。こういう方向の進化を見たかったわけじゃなかった…と残念な気持ちに。

でも、バイクを乗り回すようなスポーツ万能なイケメンだけど、複雑な家庭事情を背負って貧困層にいる白人の男の子、いまっぽい若者像、ヒーロー像だなとも思う。だからこそ、もうちょっとしっかり、その暮らしぶりや感情の動きを描いて、救済の道を示してやってほしかったな。いや切実さは充分に感じられたけどね。ショッキングな顛末だったよね。

人種の話なんかしたくないんだけども、やっぱり、いまのハリウッド映画を見る上で、どのような配役がなされているかは気になってしまう。

日本の漫画原作で、人種のるつぼという設定のわりに、画面の中にアジア系俳優が少なすぎると思ったし、黒人の看護師には殆ど台詞がないあたり、ヤッパリ奇妙だったし(描写の偏りを気にしたのかキッチリ画面に映すぶん、喋らない不自然さ、関係性の描かれてなさが際立っていたよね…)、

敵役のマハーシャラ・アリは一昔前のサミュエル・L・ジャクソンがやってたような役どころで…いまハリウッドで一番ノーブルで聡明でかっこいい男であるところのマハーシャラ・アリに、こんなステレオタイプな黒人の悪役やって欲しくなかった気持ち、いや、かっこよかったけども…ノヴァに身体を乗っ取られたときの演技、見応えあったけれども…こういうステレオタイプな役も演じていく、腹を括っているマハーシャラ・アリだ…と尊敬する気持ちも湧いたけれども

20年前に始まった企画ということで、もろもろ納得しつつ。

白人の男の子の気の良い友達役としての黒人の男の子、という、これまた昔ながらの役どころのタンジ、ジョージ・レンディボール・Jrくんの悪友っぽさ、ビジュアルがめちゃくちゃ魅力的だったので、退場してしまって悲しかった、最後にちゃんと、良い奴らしい描写がされたのは良かったけど…
調べたら『ブリグズビーベア』で主人公の友達役やってた人なのね! この路線の役がめちゃくちゃ似合う人だとは思うんだけども、うまく脱却してほしいな…

アリータ役を演じたのはキューバ系アメリカ人ということで、アリータの名前も見た目も、ラティーノを連想させる造形、ということでいいのかな。アリータ…日系人にも見えたので、いわゆる中の人はどんなひと、と思って調べて、なんだ…と複雑な気持ち。
ハリウッドでは、原作で黒人の役は白人に改変され、アジア系の役は黒人に改変されがち、キャスティングに人種的なヒエラルキーがある、という話を思い出したりした。
アジア系のキャラクターであってほしかったのかなあ。親近感を持ちたかったのかもな。

とはいえ、白人のアクションをアジア系スタントマンが演じたり、アニメのアジア系キャラクターの声を白人が吹き替えたり、普通にあることだけど、
アジア系サイボーグの中身を白人が演じるのは流石にグロテスクでは? 都合のいいときだけマイノリティの身体を借りるマジョリティ、マイノリティのカラダを乗っ取るマジョリティ、倫理的にどうよ、と思っちゃう程度にはSF脳なもんで、
アリータの外見と中の人のルーツが一致してると思えば、むしろ安心かな。アンドロイドのキャラクターにルーツもなにもないけれど…

いや、なんかもう、すげえ時代に生きてるよな。『コングレス未来学会議』『ゴースト・イン・ザ・シェル』な現在だな。としみじみしたりして。

もろもろ、これから、これからだと信じたいな。いろんな可能性に満ちている現在だと信じている。

アリータが自分が何者かを発見していく過程をじっくり見せたあたり、初めて食べたチョコレートの美味しさに感動するなど、ベタすぎて新鮮味のない描写には呆れたけど、嫌いじゃなかった。

この贅沢な尺の使い方、原作をきちんと実写化したいという作り手の思いを感じたので、なんとか続編作ってほしい。三部作の一作目だとすれば、完璧だったと思う。むしろよくもまあ、この脚本でGOを出したなと思う、話としては一ミリしか進んでないもんね。。
アメリカでイマイチ興行成績が奮わず、中国でヒットした理由はわかる気がする、評価軸の違いを感じる…アジア圏のほうが日本の漫画アニメのノリに馴染みがあるんだろうなとも思う。

賞金稼ぎやってる際の、バンパイアハンターみたいなイドのビジュアルには苦笑、明らかに身体に見合っていないサイズの武器は分不相応に見えて厨二病っぽくてソワソワしちゃった、絶妙なダサさ、必要な外連味が足りてない。

一方で敵役がみんな、いわゆるヒャッハー系の、いかにも90年代、世紀末の悪役風だったのには笑った、あれだ、『北斗の拳』より『ビーストウォーズ』を思い出した。

ハンター・ウォーリアーに登録して、意気揚々と乗り込んだ酒場での、アリータの演説には苦笑しちゃったけど、乱闘は痛快で、もうめちゃくちゃ良かったな…良い感じにバカっぽかったし、かっこよかった…めちゃくちゃよかった。

しかし、犬ー! 押井守がブチ切れそうな描写で苦笑。予告編でも使われていた、目の下の赤い隈取、あれ犬の血だったのかよ、とショックだった。犬使いのハンター、渋くて良い味出してたな…

そうそう、モーターボール、未来のスポーツって感じで良かったな。(『ローラーボール』っていうSF映画があるの? へええ)アメリカらしさが詰まったスポーツだと思った。
アメフト、ラグビー、バスケ、ローラーダービー…『ローラーガールズダイアリー』を連想できたおかげで、女の子にマッチするスポーツなのだとすんなり納得できて良かった、ストリートスポーツから興行化された本格的な試合へ、妙なリアリティがあった。

犬の血を目の下に塗ったり、チョークで肩に99と書いたり、戦闘前にメイキャップする、儀式を思わせて、ちょっと面白かった。パンツァークンストっていかにも厨二病っぽい大仰な名前には苦笑しちゃったけども。古武術や格闘技への憧れが伝わってきて嫌いじゃなかった。

しかし、なんだろうな、途中まではワクワクできた、これ100点の映画じゃない?(100点とは?)って、気持ちが前のめりになってたんだけど、あ、これ、ザレムにはいかないんだな? モーターボールの試合がピークなのね、と察してしまった時点で気持ちが冷めてしまった。時折回想される火星での戦いの記憶などは、話半分に見聞きして、もうちょっとゆったりした気分で見ようと、ギアが切り替わった感じ。

その上で、レースを途中で抜け出し場外乱闘へと飛び出すあたり、いっけええ!と興奮できたし、母チレンの手助けによる、ヒューゴの生かし方、追い詰められた状況の切り抜け方など、それなりに手に汗握ったんだけど。

ベクターとの間抜けな対決(マハーシャラ・アリが冷静に警備を呼ぶ様子には苦笑)、母チレンの衝撃的な顛末、ヒューゴの死まで描いたのは、蛇足に感じたかな…続編に繋げるために不要なキャストはここで始末した、という強引さを感じて、うーん

最後、この気持ち悪いおっさんの正体は? えっ、エドワード・ノートン!? ん? サム・ロックウェル?どっち! エドワード・ノートンがこんなとこにこんな役で出てくる!?え!? と混乱した。『ファンタスティック・ビースト』のシークレットゲストはジョニー・デップだったなあと思って、一体どういう人選なのかと。

そうそう、細かい部分だけど、ベクターとチレンに肉体関係があることを匂わせたのは良かったと思う、無機質で機械的な世界観の中で、肉体の生々しさを感じさせたあたり、人間らしさを感じられて好みだった。
それから、機械の身体のアリータが水中に沈み込んで、水底を歩いてスーツを取りに行く描写は神秘的で新鮮で面白かった。

自分の心臓をあっさりと抜き取りヒューゴに渡そうとするアリータ、いろんな寓意を含む印象的なシーンになってて良かった、

ついでに、人間の最小単位としての上半身、頭から肩、心臓と肺と主要臓器を守る肋骨から上、片腕はなくてもいい、という造形へのフェチを感じられたのも良かった。機械の女と人形愛について、今一度じっくり見てみたい気持ち。

なんにせよ、日本の漫画アニメ児童文学、今後どんどん発掘されてほしいな…このクオリティで実写化されるならいろいろ見てみたい、期待してしまうよね。
ギレルモ・デルトロ監督の『斬馬刀』はめちゃくちゃ楽しみな設定。
やっぱり、戦う女の子をもっと見てみたいんだよな、権力を持つ男に一泡吹かせられるのは、彼らと同じ大人の男ではなく、女子供である、と信じているフシがあるので。理不尽な権力に立ち向かう女の子の話をもっともっと見たいんだ…
90年代末から00年代初め、子供の頃、男女平等が謳われていた頃、世界はもっと生きやすいと思っていた、こんなに壁と天井だらけだとは思っていなかった、あの頃見た夢を、より高次な次元で見たいんだよな…

なんだろ、こんなに思い入れがあるんだから、SFファンタジー映画ももっとちゃんとチェックすべきだな、と思ったので、ノーマークだった『移動都市』も観てみようかなという気になった。でも、当たり外れの大きいジャンルなんだよな…気合い入れて行きたい。

2019.3.6.
定番の実況描写、そろそろ女性実況者が出てきてもいいよなー!って思った。実況者が主人公の映画があるならみてみたい。ハリポタ原作の実況描写がめちゃくちゃ好きだったことを思い出した。
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