りょう

手紙は憶えているのりょうのレビュー・感想・評価

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
4.0
 アトム・エゴヤン監督は、1997年の「スウィート ヒアアフター」が印象的でした。カンヌでグランプリを受賞しましたが、日本では意外な低評価で、もう1回観たいのになかなか機会がありません。
 彼の作品を久しぶりに観ましたが、少し硬派な作風が好印象です。とてもよくできた脚本ですが、邦題は物語の本質からズレています。それがミスリードを誘ってエンディングの“衝撃の真実”につながりますが、主人公には認知症の記憶障害があって、原題からイメージすれば、中盤あたりで想像できる展開です。
 3人目を訪問したときのシーンはスリリングな展開で面白いし、あっさり描いていた2人目のエピソードが何気に辛辣でした。後半で手紙の全容が判明しますが、それを病室に居合わせた少女に朗読させる展開が秀逸です。
 クリストファー・プラマーのピアノも素晴らしかったです。本人が演奏していたことはエンドロールでも確認できます。ナチスに迫害されたメンデルスゾーンと重用されたワーグナーという対照的な楽曲を使用するところが効果的です。
 ちなみに、ドイツ語のセリフで英語字幕が表示されるところは、多言語が使用される意味を表現するためにも重要です。最近の作品では、全部が日本語字幕になっているので、何語でしゃべっているのかを意識しないまま、登場人物の関係性とかを理解しないことが多くなっています。
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