なんち

手紙は憶えているのなんちのネタバレレビュー・内容・結末

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

お爺ちゃんの復讐殺人ロードムービー。
とても良い。
実際アルツハイマーの人と接したことがあると随分都合の良いアルツハイマーなのだが、そこはフィクションと割り切って観よう。

刺客として送り込むのに社会的肉体的弱者のなんと強いことか。疑われない所か皆んなが助けようとするので本当に強い。

手紙の内容は最初伏されてはいるがまあ殺人だよねってのはすぐ察するんだけど、最後にもう一つなるほどポイントが用意されている。

ロードムービー系が大体好きなのでこの映画もすぐ気に入ったんだけど、主人公役の人の演技がすごく良かった。

寝て起きるたびに妻の名を呼び死んでしまったことを知り、その度に悲しむ姿は見ていてこっちも悲しくなる。
目覚めるたびに妻の死を突きつけ悲しませるのもまた復讐の内なのではないかと思うくらい。

アメリカに渡ってからは妻のことを本当に愛していた普通の男であったのだろうと、息子達の反応からも窺える。
それなのに戦時中は残酷極まりないことを平気でしていたというギャップがまた胸にくる。

自分がユダヤ人だと思い込もうとしたのは生き残るためであると同時に、自分の罪から逃れたかったのだろう。だからこそ本当の記憶を封印して偽の記憶を真実と錯覚してしまったんだと思う。そうであって欲しかったのだ。

また自分の家族を殺した憎い相手と心の内を隠して友人を演じていたマックスの執念の凄まじさも同時に感じる。

でも仇探しを続けるか否かを常にゼブに問い続けて決断を彼任せにしていたのは最後の最後に少しの迷いや葛藤を抱いていたのかなとも思う。

セブの妻への愛も、アウシュビッツの生き残りの男への涙も嘘はなかったであろうのが本当に悲しい。
しかし自己防衛のためとは言え、咄嗟にナチ警官を撃ってしまうのも恐らく本性なのだろう。
殺されないためには殺す側に躊躇なく回る本質が戦時中には悪い方に働いていたのだなと。

とても悲しい映画だけど、ヨボヨボ復讐ロードムービーってだけでほんとすこれる。景色の移り変わりとか、未来のないお互い死ぬだけの旅という虚無感もとてもよい。
なんち

なんち