この作品のもっとも優れた点は、死をドラマを盛り上げる要素として安易に利用しないことにある。
イスカンダルを目指して16万8000光年の過酷な旅に挑むヤマトではあるが、意外にも航海中の死者の数は、メインキャラクターに限定すると、多くない。
いってしまえば、製作陣はいやが応にも盛り上がる、死という物語の劇薬を投与することを自ら禁じた『縛りプレイ』にチャレンジしたということだろう。
そして、そのチャレンジに見事成功して、勝ってみせた。それくらいに本作はおもしろいし、戦争の悲惨さがこれでもかとばかりに伝わってくる。
なぜそんなことが可能なのか?
その秘密は、各キャラクターのバックグラウンドに隠されている。
ほとんどの乗組員たちは物語がスタートした時点で、家族や友人など、大切な人たちを亡くしてしまっている。
そして、地球はあと1年で滅亡すると予期されている。
つまり、『死』の悲しみは、この物語がスタート時点で、すでに描かれているのだ。そんなことはとうに織り込み済みなのである。
本作は、その悲しみを乗り越える物語を描いてみせる。
自分の大切な人間を奪い去った憎き相手を果たして許すことができるのか。
そんな奴らと手を取り合い、宥和をはかることは可能なのか?
もっといえば、ちがった肌の色、ちがった思想、ちがった生命体同士でわかりあうことは可能なのか。
そんなテーマを、手を替え品を替え、くりかえし問い返している物語であると思う。
文句なしの傑作です。おもしろかった!