かつきよ

くすぐりのかつきよのレビュー・感想・評価

くすぐり(2016年製作の映画)
3.0
犯罪組織を追ったドキュメンタリー
ドキュメンタリー苦手な私は、別にみてもみなくてもよかったかなと思う作品。

Twitterかなんかで見かけて、「くすぐり」なんて素朴なタイトルから「ささいなこと(くすぐりに関する大会)を追っていたら、いつのまにかとんでもない事実に行き当たってしまった」っていうどんでん返し系のドキュメンタリーかと思ったんですけど、どんでん返しなんて全然ありませんでした。平穏だったのは最初の数分だけ。
5分視聴した頃にはもう、きな臭さとか裏社会の闇を想像させるような真実に足を踏み入れていて、そこから最後に至るまでひたすらある一つの怪しい集団を追って取材し続けるだけ。

◆一応内容はしっかりしていました

私はドキュメンタリーが好きではないのですが、それでも結構引き込まれるくらいにはディープな話。
もちろん映像作品にするという時点で話の順序やつながりを整えたり、ストーリー仕立てにすることを重視して切り貼りしているのでしょうが、それでも「え?これ現実?」「フィクションだよね?」「どこからどこまでが本当でどこからどこまでがフィクションなのかな」と何度も思いました。

明らかに犯罪的でサイコパスな活動をしていて被害も出ているけど、裁かれることはなく、ドキュメンタリー公開時点ではこの組織は絶賛活動中。今はどうなのかはわかりませんが、司法が裁けない異常性や悪意というものを、ドキュメンタリーという形で世の中に公開したくなる製作者の意図は共感できますし、ちゃんと伝わりました。この作品が公開されたことで、この組織や首謀者が捕まればいいのに……と思うのですが、外国のことだし、流石に固有名詞は変えられているのか、軽く調べても微妙な記事しか出てこないんですよね。
しかし、この作品自体が今はこう解禁になっていることを考えると……圧力?と思わざるを得ません。

◆世の中の闇を追うドキュメンタリーが好きな人にはおすすめ

映像作品ではあるけど、基本的にはやはりドキュメンタリー
私は見慣れていないので、他のドキュメンタリー作品と比べてどうなのか比較はできませんでしたが、まあまあ面白かったです。

◆ドキュメンタリー苦手な人にはお勧めできない

すごく身もふたもないことを言いますが、標題の通り、この作品はドキュメンタリーでしかないので苦手な人はお勧めできません。
被害者インタビューなどもございますので、精神的苦痛が伴う事実が過去に実際にあったんだーと思うとやっぱり辛くなるし(その点では私は今作はまあまあ平気でした)
それよりも個人的にうーん、と思ったのは、悪がのさばっていられるのはどうしてかという真相部分とか、営利目的じゃないし目立った収入源もないのにその運営費用や出演者への褒賞の費用はどこから出ているのかという真相部分。あっと驚くような真相はなくて、妙に生々しく、三流映画にありそうな貼ってつけたような真相なのだけれど、だから「物語」としてはパンチが少ない。そもそもドキュメンタリーなのにそれを「物語」として楽しもうとしている自分は、つくづくドキュメンタリー作品に向いてない感性をしているなと感じました。
三流映画にありそうな真相、とは言ったけど、それも現実での出来事だと思うと不気味でしょうがない。それをよしとする会社も、野放しにする社会も……
世の中には、こうしたお金持ちがそこそこ存在しているんだろうなとは思います。上流階級というか、貧富の差で言うと富に傾いてる人間。そして、サイコパスの拗らせど変態の社会不適合者がそうして権力や金を握ると、こんなふうに悪用するのか……という。欲望に対しての抑止がないと、誰でもこうなる可能性はあるものなのかなぁ。

◆結末や真犯人本人は闇の中

ドキュメンタリー作品なのは大前提ではあるのですが、一番ぼんやりとしたポイントはここ。
取材を丁寧に行い、こんな不気味な事がある!と世に出してくれたのはよいのですが、結局取材は途中で引き上げられていて、現状は何も解決していないし、何も変わっていない。
取材を行った事、それで何かが明るみになった事、それを私自身が認知した事、でも私は何もできずに、ただこの世にそんなことがあるんだ、と漠然とした気分になるだけ。それがドキュメンタリーというものなんだろうけど、私はそこに価値があるとは思えない。
無価値とまでは言わないし、知識として情報が蓄積されたことは純粋に価値がある事だと思うけど、その程度。
何も影響することはできずに、何も解決することはできずに、ただ自分の知らない世界のことを見せられて、無力な気持ちになるだけ。それが苦手で、面白かった!とエンターテイメントとして割り切ることができないし、そもそもこの手のドキュメンタリーってエンターテイメントではないと思うし、だったら私はこの作品に触れてどうすればいいのかな、と思う。
私はドキュメンタリー作品の楽しみ方を全く知らないんですよ。この映像作品のレビューが書けるわけがないですよね……。

黒幕についても、その正体までは掴めるけど、結局直接の取材や、その黒幕の生の人格や言動に触れることはできずに、過去の客観的事象から人物像を浮き彫りにしていくだけ。闇を暴くからには、やはり生の黒幕に触れて、もっとずしりとした生々しさを突き詰めた体験したかったというのが、視聴者的なわがままであって正直な感想。








◆以下ネタバレ少しあり



















※ネタバレ














◆真相は

途中、くすぐり動画に出演させられたスポーツマン被害者のインタビューがありますよね

作中では、くすぐり我慢動画に出たことがはしたないことだとされているような表現が何回もされていて、動画の流出を恐れているような人たちが現れます。

スポーツマンも、「対戦相手が俺のあの動画を見ていたらどうしよう」と今でも不安になる、と発言していますが、このあたりに違和感を覚えたのは私だけでしょうか?

本当にただくすぐりを我慢するだけの大会動画であれば、このドキュメンタリーの撮影者が最初に動画を見つけた時と同じく、「くだらないけど面白い企画だな」くらいに思って、おふざけ動画程度で済むのではないのでしょうか。
たしかにくすぐられてる姿を人に拡散されて大多数に見られたとしたら恥ずかしくないわけではございませんが……
ただ、知らない人がくすぐられてるだけの動画なんて、普通の人は興味持たないだろうし……たまたま見られていても、自分だったらそんなに深く恐れないんじゃないかなと思ったんですよ。

そこで思い至ったのが、くすぐりの動画って、くすぐられるだけじゃなくて、もっと性的な表現も含まれる動画だったんじゃないかなってこと。平たく言えばAVですよね。
最初の数本は本当にくすぐりを我慢するだけだったのかもしれないけど、何本目からの撮影は性的なちょっかいを出されることも含まれ始めて、それがエスカレートしていくとか……。
そもそも黒幕はくすぐられる姿を見ることに性的な快感を覚えるという性癖を持っていそうですが、個人的に疑問なのは、くすぐりと性の感覚が結びついていたからといって、撮影依頼するものがくすぐられる姿だけで終始されるものなのかという点。人の性感覚はそれこそひとそれぞれなので、そうなんですと言われて仕舞えばそれまでなのですが……

出演者の嫌がりようとか、病み具合からすると、そういう表現まで含まれていたんじゃないかという邪推が切り離せないんですよね。

◆疑心暗鬼

ここで一番怖いなと思ったのは、ドキュメンタリーだからといって画面に映されてることが真実の全てじゃないんだよなという点。
とんとん拍子に話が進んでいるように見えたり、スムーズに画面は展開していきますが、それってやはり作品として整然されて、取捨選択された後の映像だからなんだよなという。
加えてその取捨選択や整理整頓には、作者側の主観やメッセージが織り交ぜられてしまっているので……。事実を切り取ったといっても、それがどこまで隠蔽されていて、どこまでリアルに描かれているのかが、どんどんわからなくなる。
それなのに、ドキュメンタリーだからといって、見た後に世界の真実を見たような気持ちになってしまうのが怖くて、やっぱり私はドキュメンタリーが得意ではないなと思いました。

最初から作り物とわかってみていた方が、色々楽なんです。消費できるし、消化できるし、虚構に騙されようって思って騙されるわけなので。


◆余談


途中でてくるくすぐりのAV撮影者は何者だったんですか笑
あの人は黒幕とは関係なく、きちんと同意を得たモデルに賞金を支払って、作品としてくすぐり(オンリー?)の動画撮影を行なっている、正義のフェチズマーですよね。
彼の作品見てみたいなーと思ったのですが、検索してもぜんぜん彼の公式サイトすら見つけられませんでした笑
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