半兵衛

高い壁の半兵衛のレビュー・感想・評価

高い壁(1947年製作の映画)
3.0
妻殺しの嫌疑をかけられた主人公の男性、彼もいったんは犯行を認めたものの病院での検査の結果主人公は頭部の負傷が原因で記憶障害を起こしていることが判明する。医師たちは頭部の傷を治療したのち、麻酔療法で記憶を取り戻そうとする…。他のレビューの方々も仰っているようにニューロティックな風味が施されているサスペンス映画で、戦争で受けた傷が原因で心身ともに不安定になった主人公の動向がロバート・テイラーによる熱演も相まってハラハラ感を生む。

この監督は映像の雰囲気づくりが上手くて、冒頭のオフィスのシーンの一見すると普通の生活なのにどこか不穏さがある不気味な映像で見る人を釘付けにさせる(また見直すとある人物の邪念がそうさせていることがわかるところも上手い)。それから焦燥する主人公の心情を代弁するかのようなどしゃ降りの雨。

主人公が真犯人を追跡するため病院から抜け出し、警察に追われる後半のスリリングな展開も同時代のヒッチコックやラングに匹敵するくらい見事な出来栄えになっていて思わず唸ってしまった。

ただ主人公が不安定になっている分、共感しづらいキャラクターになっているのがネックかも。そもそも子供がいるのに自分が息子の母である妻を殺したことによる悪影響を考えていない無神経さに大抵の人はひいてしまうだろうし(さすがに治療が終わったあとは考えてるけど)、そして子供のことを忘れて病院に長くいることで金のかからない楽な生活が出来ると算段するところも理解に苦しむ。そんないいところが一つもない主人公に対して精神科医のヒロインが惹かれてしまう展開も「ええ、なんで?」という気分にさせてくれる。

あとラスト真犯人が判明するのだけれど、真犯人がいとも簡単に真相を語ったり脱走した主人公の罪が簡単にチャラになったりとあまりにも都合のよい展開になりすぎて拍子抜けしてしまった。そしてそのままハリウッドらしいラストへ…、もう少し捻りを加えたらもっと面白くなっていたのにという残念な気分になったまま映画は終わる。

この映画のキーパーソン、ハーバート・マーシャルの穏和そうに見えて不気味な淡々とした演技は一見の価値あり。
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