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喜望峰の風に乗せてのNMのレビュー・感想・評価

喜望峰の風に乗せて(2018年製作の映画)
3.5
伝記映画。素人が冒険に出て全編苦悩する。そして驚きの結末。
冒頭はいかにも幸せそうな家庭と明るい性格が描かれるがどうも不穏な雰囲気が漂い、これがどう崩れていくのかというスリルを持って見守ることになる。

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60年代イギリス。
ヨット好きのドナルドは愛する妻とかわいい子どもたち。
船に使う機器の制作と販売をしている。

ある日ドナルドは会社の宣伝のためにもヨットでの無寄港世界一周レースへ出る決意をする。
会社の宣伝にもなるし、賞金で家族が豊かにもなるし、何より勝てる気がした。
危険だし半年は会えなくなるので妻は反対。しかしきらきらと目を輝かせる夫を結局は応援。

まず船の制作。自ら設計。
出資者を探して回り良い人が見つかった。
ヨットは高性能なものなので高額。そして自身も次々とアイデアが湧く。
もう出発している人はいるのにドナルドはまだ船すらできない。技術者たちは夜通し作業してくれている。
レースに出発すらできなかったとなれば、借金の担保にした自宅と会社は没収されるだろう。

急かされる形でついに出発。取材も受けたし大勢に見送られた。期待がかかっている。
遠ざかる夫の姿に、妻は耐えきれず涙する。ずっと不安だったが夫を応援し、子どもたちに心配させないよう気丈に振る舞っていた。
出場者のなかで最終のスタート。

一人になったドナルド。
足の踏み場もな船内を片付けていると、まずは船酔い。実は遠洋に出たことがない。
早速船にトラブルが起き、ナイフでざっくりやってしまい片手しか使えない状態に。
絶え間ない風の音や棚のきしむ音も激しいストレス。いつもどこかが故障して休む暇がない。

自分の生存率を意識するように。
気弱になると家族のことが頭に浮かぶ。愛する家族。そして戻ったら会社は失う。
もう戻れないことを実感し頭を抱える。

だがスピードは一番。最速記録より早く、素人が奇跡を起こしていると、家族やメディアを驚かせた。
2ヶ月経ってクリスマスになると余計に寂しさがこたえた。しかし家族に電話するときはいつも元気を装う。

レースを盛り上げるべく予想を伝えるラジオを聴くのが苛立たしくなってきた。家族と連絡が取れなくなるが無線を全部切った。
妻も不躾な取材と不安でストレス。収入がないので生活も苦しい。

アルゼンチンに寄ったドナルド。
身なりはボロボロで湾岸警備隊に警戒の目で見られる。地元のようには歓迎されなかった。海洋ブームはイギリスだけの話。
帰りたいという思いとそもそも帰れるのかという不安。

だが依然最速。
トップに追いつくことが目標であったが、そのトップが脱落してしまった。だが目標を失うとますます孤独。
この頃には幻聴や幻覚すら起こった。
命の危機が長期間続き、精神状態はずたずたに……。
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最初に計画を伝えたら自分も他人も止められなくなったのだろう。
万全の準備はしたいが資金と期限のプレッシャーから逃れられない。
家族も大いに期待している。これ以上出発を延ばせない。家も会社も担保に入れてしまった。
やっぱりやめますなどと言い出せなかったことは想像できる。
結果を知りながら出発した。
途中で自分だけが残ってしまいますます切り出せない。
その日までその思いを一人で抱えどんなに辛い日々を送っていたのだろう。
ごめんなさいをして家族とでも一人でも逃げてしまうこともできたのに、とは他人事だから言えることだろう。
そもそも彼がどういう理由でレースに出たいのかほとんど説明されていなかったわけにも納得がいった。事実の物語とはいえ全編に渡り真相は彼しか知りようがない。
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