事件当事国が関わらない欧米製の英語劇にろくな物は無く、全く期待していなかったのだが、堂々たる作品だった。
ロシアの海軍士官が全くロシア人に見えないとか、ロシア海軍で「The Sailor's Band」を歌うのか?とか・・・突っ込みどころや疑問はある。
事故の真相には諸説あるし、あくまでも"米国人作家のノンフィクションを原作とした劇映画"という事は割引いて観る必要はある。
あるけれども・・・出港するクルスクの写し方(CGだけど)の演出だとか・・・狭かった画角がクルスクが潜水した瞬間にスッとワイドサイズに広がり、ラストシーンは気が付くと元の狭い画角に戻っている・・・など、とても丁寧に凝って映像化しているのは分かる。
ああ、思い出したよ・・・あの事故をリアルタイムで知っている人間としては・・・あの頃のロシアって、こんな惨めな状態だったんだよな・・・。
給料の遅配や物資の横流しと賄賂、必要な機材の売却、次々と老朽化しメンテナンスが滞った装備、行き届かない教育、硬直化した組織・・・。
それでも軍が記者会見をしたり、プーチンが遺族と直接対話したりと、ソ連とは違う社会の変化に希望が見えていたんだよ。
その後、急速に景気回復し、大きく生まれ変わった新生ロシアを目にしている・・・と思っていたら、ウクライナ侵攻の様相で、実は何も変わっていなかったロシアに愕然とするんだな。
微妙な時期に公開になってしまったが、同時に絶妙な時期に公開された作品になってしまったのが悲しい。
"西側"の目線で作劇されたフィクションが、寓話としてロシアのある種の実相をあぶり出してしまった現実に、酷く悲しくなってしまった・・・。