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古都のKeithKHのレビュー・感想・評価

古都(2016年製作の映画)
3.5
京都を舞台にした、ノーベル賞作家・川端康成の至高の名作の三度目の映画化です。ただ今回は原作に大きく手を加え、時代を現代に移し変えて大胆なオリジナルストーリーに仕上げています。

幼少時に生き別れ互いに全く異なる人生を歩む双子姉妹の20年後の出会いと、運命に弄ばれながらも京都の伝統と歴史に育まれて毅然と生きる二人の生き様を、原作を忠実に描いた前2作と異なり、本作では二人の娘が成年となり進路に思い悩む様を機軸に、姉妹が各々母として接する数ヶ月の日常の起伏が描かれています。舞台は徹底して京都に置きつつ、その水脈が通ずる対極としてパリを位置づけ、娘たちのパリでの出会いが、各々の苦悩と紆余曲折した棋譜の行き着く先、いわば未来への入場門として描かれます。

主役を一人二役で演じる松雪泰子の、可憐で、儚げで、嫋やかで、そしてはんなりとした気品に満ちた所作、言動、振る舞いは、将に京都の街を投影して、至福の心地良さを齎してくれました。京の街を行くその歩趨は優美で瀟洒であり、如何にも京女の風情、都の雅趣を漂わせています。伊原剛志の柔和だけれど芯の強い包容力、奥田瑛二の京都人らしい強かさ、やや肩肘張った硬さが気にはなった橋本愛と成海璃子、老獪な栗塚旭等、個性的な脇役陣も揃って落ち着いて観られました。

但し、取り立ててストーリーに起伏のないこの映画の真の主役は京都の街そのものでしょう。1200年の悠久の歴史に培われた京都の街にとって、今の京都の在り様に対する苦しみが、嘆きが、喘ぎが、そして怒りが、息が詰まるような重圧で上映中ずっと雄叫びとなって迫って来るのを感じていました。
而も終始韻を踏んで平仄を整え、居住まいを正して格調高く訴えかける悲痛な声明の音色が聞こえていたような気がします。
町家の虫籠窓、鍾馗、荒神棚に並ぶ布袋人形、通り庭、坪庭からは、激しい息遣いと鼓動が、重圧感を以て津波のように押し寄せてきました。
作中終始温和で典雅な香気が漂い、亜麻色と鴇色のベールに覆われ、心地良く揺蕩っていた靄に包まれた先に見えてきたのは、実は激烈に訴えかけていたこの映画の本質でした。
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