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ソフィー・マルソーの秘められた出会いのakrutmのレビュー・感想・評価

4.0
出版パーティーで出会ってお互いに一目惚れした、人気女流作家と男性弁護士の関係を描いた、リサ・アズエロス監督の恋愛映画。妻や子供を愛してやまない男性と、既婚男性とは恋愛をしないと心に決めている女性が、何度も出会って惹かれ合っていく冒頭の様子からは、恋愛至上主義フランスの映画に典型的な不倫愛に陥っていくように思えるが、本映画は実はそのような単純な展開にはならないところが予想外で新鮮である。大きな出来事は起こらないが、恋愛における大人の内面や心理的葛藤を静かに描いた、ピリッと辛い良作と言えよう。

シュレディンガーの猫ではないが、観測されない限り複数の状態の確率的な重ね合わせとする量子力学的世界観を映画の中に忍ばせている(なので英語タイトルは『Quantum Love』)のも、まあお洒落である。別にそのような理屈を付与しなくても、単に仮想現実のシーンが挿入されているだけなのだが。

主人公の女流作家を演じているアラフィフのソフィー・マルソーがとめどなく美しいという感想を漏らすのはお約束であるが、一方の相手役を演じるフランソワ・クリュゼは、『君のいないサマーデイズ』のような頑固で堅物な役柄はとても似合うが、こういう恋愛ものにはミスキャストだと思って見始めたが、表面的に激しい恋愛ではないがゆえに、落ち着いた感じが意外に似合っていて、なかなか好印象だった。

そして、フランソワ・クリュゼの妻役として、リサ・アズエロス監督自身が出演している。リサ・アズエロス監督は日本ではあまり知られていない(Filmarksでも表記が統一されておらず、「リサ・アズエロス」と「リサ・アザロス」が別人として扱われている。こういうのは何とかならんかなあ、つみき)が、あのマリー・ラフォレの娘であり、すでに多くの映画の監督、脚本、製作を行っている。

なお本映画は、直前に亡くなった親友の女優ヴァレリー・ベンギーギに捧げられている。ヴァレリー・ベンギーギはリサ・アズエロスが監督した映画『Comme t'y es belle !』で初めて大きな役を与えられ、彼女がセザール賞助演女優賞を受賞したときに真っ先にリサへの感謝を口にしたほどの仲だったそうである。

最後に一言。「物語を終わらせたくなければ、始めるな。」
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