Yuichi

RAW〜少女のめざめ〜のYuichiのネタバレレビュー・内容・結末

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

これは、ひとにすすめたいのかどうか悩んでしまうが、狂気というか、世界のひずみのようなものを見たいと思っている人には、強くお勧めできる。

ただし、食事中はお勧めしない。

オープニングシークエンスのじっくりとしたワイドショット、動かないところにくる、衝撃。そして、その意味。

丁寧な構成に震える映画である。

ベジタリアンとして育てられた次女が、姉と同じ獣医の大学へ入学するところから物語は始まる。

寮生活が始まるその夜に、突然叩き起こされて、先輩からの洗礼を受ける。全員がどこかに連れて行かれて、そこで挨拶をした後で、パーティが始まる。

お堅い学校ではなく、こういった上下関係の中で、ハメを外していく学校。

そんな学校の伝統行事として、新入生は動物の内臓を食べさせられる。丸呑みして,酒を飲み、それをすることで、メンバーとして認められるというもの。

それに対して主人公はベジタリアンだから無理だと主張し、姉に助けを求めるが、姉はそんなことない、食べれる、食べろと、無理やり食べさせられる。

その後、ひどい蕁麻疹がでて、苦しむことになるのだが、体の異変はそれだけではなかった。あまりにも空腹に悩まされて、ベジタリアンなのに、肉が欲しいという衝動が抑えられなくなる。

寮を抜け出して、肉を食べたり、髪の毛を食べたり、生肉にかぶりついたりと色々な方法を試すが、飢えは埋まらない。

そんな時に、ふとした偶然で姉が誤って指を切り落としてしまう。そして、それを見ているうちに、口にして、食べて、舐めて貪り、しゃぶり尽くしてしまう。

肉の味を知ってしまう。

そして、気づけば、ルームメイトのゲイの体をずっと見ている自分に気づく。恋のように描かれるが、肉を食べない人たちの間で恋と呼んでいるものなだけで,おそらく主人公にとっては、食欲であり、文字通りの肉欲である。

最後には、その衝動を抑え切れずに、ルームメイトを食べてしまう。姉とともに。そして、姉は殺人でつかまり、主人公は自宅に帰る。

父親からは、なんとか解決策をお前は見つけて欲しい。と伝えられ、その体に、無数の傷跡があることを初めて知る。

異常なのは自分だけではなかった、と。



途中から、肉を食べてない人間が肉を食べるとそのうまさに感動して頭がおかしくなる、と言ったベジタリアンへの揶揄かと思って、嫌な気持ちになりかけていたところ。
最後のオチが来て、ベジタリアンだったことにどれだけ強い意味があったのか、親の意思が感じられた。

そして、そのうえで、主人公の「猿も人も同じ」という言葉は、改めて深い意味を持ってくる。
人間を食べるという禁忌を犯してきた家系にとって改めて人間と猿とが同じなのであれば、それ以外の人間にとって、人間と猿とを区別するのは、なんだろうか。

同じ種かどうか?であるならば、それは、差別につながる思想でもある。同じものを愛おしむことは、違うものをどう扱ってもいいのだとも言えてしまうのだから。

この映画が投げかけている問題を私たちは解決できるのだろうか。
Yuichi

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