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永遠と一日のodyssのレビュー・感想・評価

永遠と一日(1998年製作の映画)
3.5
【現在と過去を自由に往還する】

人生の終わりに近づいた老詩人が、旅に出ようとして少年と出会うというお話です。

アンゲロプロスの映画なので、進行はかならずしも分かりやすくありませんが、アルバニアのギリシア系住民らしい少年を、いったんはアルバニアに戻そうとした老詩人は、結局少年とその辺を右往左往する羽目になる。というより、自分が少年から離れられなくなるのです。

若い時分の回想がしばしば出てきて、現在と過去の区別がつきにくくなるのも、アンゲロプロス作品の常套。今は亡き妻が若く美しかった頃、そして現在は娘夫婦に売られかかっている旧宅での暮らし。

また、外国で育ちながら故国のギリシアに戻ろうとした詩人の挿話もある。言葉が分からないので、言葉を現地の人々から買おうとする。多分に寓意的な挿話ですが、しかし詩人というものがそもそも言葉を売ることで生きている職業人だとするなら、言葉を書くことで詩を作る詩人も矛盾とは言えないのかも知れません。或いは、異国で暮らしてきながら故国に戻ることの痛切さとちぐはぐさの寓意、もしくはそもそも生きることが孕む矛盾の寓意かも知れません。

そのほか、イメージによって観客に言語で表現できないものを伝えようとするアンゲロプロスの手法および力量は、いつものとおりと言うべきか。

しかしタイトルの「永遠と一日」が示すように、また老詩人と少年という構図が暗示するように、老いと若さ、過去と現代、幸福と不幸、政治的混乱と安寧、といった、一見すると相反するものの間を自由に往還する作風は、或いはこの映画で頂点に達したのでしょうか。
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