要

ニック・ヤリス ~21年間 死刑囚だった男~の要のレビュー・感想・評価

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よくある(あっては困るが)冤罪ドキュメンタリーと思ったら、本人のタレント性と演出に引き込まれていった。
特にいくつかのシーンは神がかっているというか、素晴らしい一人芝居を見ているような錯覚に陥る(序盤の歌のところ、本との出会い、ジャッキーにまつわる部分)

なぜ彼は上訴を取りやめ自らの死刑執行を求めたのか?本人の語りで徐々に明かされていく彼の半生と運命。

いくらか誇張だったとしても、獄中で彼が変わった(自分を取り戻した)ことは疑い得ない。本当に精神性の高い人に思えた。
「心を開いて話せる人の目を通じてのみ自分を知ることができる」






以下ちょっとねたばれ
逮捕前は車泥棒をして日銭を稼ぐような薬中だった。別件で逮捕された際、仮釈放ほしさについた嘘が裏目に出て、強姦殺人の冤罪を被ってしまう。ここまでは浅はかなキッズ……なのだが、刑務所で読書や愛する女性に出会い、これまでにない幸福感と高い精神性を得る。冤罪を晴らすべくDNA鑑定にこぎつけても運命のいたずらで何年もうまく行かない。手を尽くしたと感じた彼は、自らに残された最後の権利、死刑執行を求めるのだった。
彼の語りは表現や語彙が豊富で本当にすばらしい。荒んだ十代だったために逮捕時は読み書きレベルはかなり低かったらしいが、読書のエピソードで潜在的な能力が目覚めたことが伺えた。
終盤に明かされるが、彼は幼少期にあるトラウマ体験をしている。本当にこの手のことは許しがたい。彼は読書を通じて自分を見つけたとき「死刑囚でありながら幸せだった、人生でようやく自分自身でいることが快適に思えた」と語っているが、裏を返せばそれまで一度も自分の存在を肯定できなかった人なのだ。似た痛みを抱えている人は、最後にこの独白が挿入される意味がよくわかると思う。
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