ぺむぺる

バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3のぺむぺるのレビュー・感想・評価

5.0
文句なしの完結篇。BTTFというのはシリーズ全体が水の旅に似ている。森の中で生まれた奇跡のような愛らしい泉は、急流に乗って極上のスリルを提供してくれたあと、未知へのロマンあふれる大海へ悠然と注ぎ出る。各話には各話の楽しみ方があって好みは人それぞれだと思うが、作品の本質は常に同じ。わたしたちの生活・人生に欠くべからざるもの、希望である。

それはときに友情という形をとったり、愛情という形をとったり、成長という形をとったりする。彼らの冒険は彼らの冒険で終わらず、わたしたちの人生の続きをも照らしてくれる。この余韻がとてもいい。

本作のクライマックスはクララの向こう見ずな行動に端を発するものだが、それを女の一時の激情と受け取ってしまうのは早計だろう。予定調和に陥らない、まったく新しい未来を切り拓いたのは、彼女の愛と勇気そのものなのである。彼女の普段からの立ち居振る舞い、知性や思慮深さがその説得材料になっているのは、同じ女性として大変に好ましい。

どこかで読んだものの中に「アメリカという国は歴史が浅い分、持てる好奇心の一切を過去ではなく未来に向ける」というような一節があった。ことの真偽は置くとして、本作の建て付けはどうか。タイムマシンといった道具立てやタイトルの語感から、未来についての映画と思われがちだが、実際のところその大半で描かれるのは過去である。過去の人々、過去の出来事、過去の行い、連綿たる過去からつながる“今”が、未来へと続いていく。この視線のベクトルこそ、futureにbackするという粋なタイトルの核心なのだろう。

「未来は白紙だ。まだ何も決まっていない。だからがんばるんだ」
ラストのドクの名言は見る者の心を震えさせるが、実は1から同じことを言っている。それどころか、わたしたちはこの映画を見ずともそのことを知っている。はっきり言ってそのへんに転がり落ちているような“正論”だ。しかし、それがストンと腹に落ちるのは、「本当にそうなのだ」と心から思えるのは、マーティやドクと過ごした冒険の経験あってこそだろう。それが映画の、物語の、フィクションの魔法なのだ。一睡の夢が人生の糧たりえることを力強く教えてくれる名作。
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