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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのYYamadaのレビュー・感想・評価

3.7
【サスペンス映画のススメ】
〈ジャンル定義への当てはめ〉
 ○: 観客の緊張感を煽る
 ▲: 超常現象なし

◆作品名:
聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・
セイクリッド・ディア (2017)
◆サスペンスの要素:
・家族3人の延命方法の追求

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・郊外の豪邸で暮らす心臓外科医スティーブンは、美しい妻や可愛い子どもたちに囲まれ順風満帆な人生を歩んでいるように見えた。
・しかし謎の少年マーティンを自宅に招き入れ家族に紹介したことから、子供たちは突然歩けなくなり、奇妙なことが起こり始める。家族に一体何が起こったのか?そしてスティーブンは容赦ない究極の選択を迫られる…。

〈見処〉
①「A24」配給。超難解でただただ怖い、
 傑作ホラー・サスペンス
・『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』は、2017年にイギリス・アイルランド合作にて製作されたホラー・サスペンス。
・『ロブスター』(2015)のギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、幸せな家庭が1人の少年を迎え入れたことで崩壊していく様子を描き、第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。
・本作は「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という倫理学のジレンマ「トロッコ問題」に直面した主人公スティーブンをコリン・ファレルが、美しきスティーブンの妻をニコール・キッドマン、謎の少年マーティンを『ダンケルク』の新鋭バリー・コーガンがそれぞれ演じている。

②タイトルの意味
・本作のタイトルは、作品の終盤にスティーブンが子供たちの学校を訪れ、娘のキムがA評価を貰ったと聞いたレポートの題材、ギリシャ悲劇「イピゲネイア」に由来。
・作中ではその内容は披露されていないが、要訳すると…ギリシア軍の英雄アガメムノンは、狩りで女神アルテミスが可愛がる聖なる鹿を殺してしまい、逆上した女神から娘イピゲネイアを生け贄に奉納を迫られる。イピゲネイアは、自分が生け贄になるしか国を救う方法は無いと決断し、祭壇で首を落とされるという悲劇の内容。
・本作においては、女神アルテミスは父親を殺された少年マーティン、アガメムノンは主人公のスティーブン、イピゲネイアは娘のキムと重ねることが出来るが、本作で描かれる彼らの行動は、ギリシア悲劇よりも、人間の業が生々しい。
・因みにギリシャ悲劇の後日談では、娘を殺された母親は、怒りのあまり夫のアガメムノンを、そしてそれを許せなかったイピゲネイアの弟が母親を殺害。本作もその後は、どうなるのだろうか?

③結び…本作の見処は?
◎: 父の代わりにならないと悟ると豹変する少年。医師として・親として、決して自らの過ちを反省しない父。保身のために父や少年にすり寄る母と娘…。誰も贖罪しない人間の業が詰まった作品。その本質を理解度によって、大いに評価が分かれるはず。
○: ホラー描写は少ないものの、物静かなシーンの連続によって、内面からの怖さを助長している。心理ホラーサスペンスの傑作は、音で支えられている。
○: また、鼓動するナマの心臓や、エスカレーターを上部から俯瞰する描写など、非常に印象的なカットが恐怖を増大させている。
▲: 本作の長所でもあるが、少年はどのように暗躍しているのか?など、説明描写はほとんどない。理解度の低い鑑賞者を「置いてきぼり」やむ無しの演出となっている。
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