グラッデン

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのグラッデンのレビュー・感想・評価

4.4
狂気の儀式。

本作を手がけたヨルゴス・ランティモス監督の前作『ロブスター』が非常に刺さった作品だったので、予告編から異様な雰囲気を醸し出しながらも楽しみにしていた作品。

『ロブスター』もどうかしてる世界観でしたが、本作の「ヤベェの見た」は今年見た映画では突き抜けていました。

優雅な暮らしの一面を見せる医者の家族の風景の中に落とし込まれる小さな違和感が、徐々に大きな不協和音を呼び込み、そして狂気の連鎖が発生。聴き心地の悪さしか感じないストリングの音、『ロブスター』でも印象的だった特徴的なアングルから撮影された建築物の奥行きを意識した構図が登場人物と鑑賞者に底知れぬ不安を印象付け、閉塞感を強調する演出は見事。

また、異様さの漂う舞台設定の中でインパクトを残したキャストの怪演も印象に残りました。先日鑑賞したソフィア・コッポラ監督の『ビガイルド 欲望のめざめ』での共演を目にしたばかりのコリン・ファレルとニコール・キッドマンの夫妻役の混乱と狂気が入り混じった演技は味がありましたし、何より作品のカギを握るバリー・コーガンのサイコパスぶりが半端ない。異常な状況なのにある種の儀式的な側面を強調させる静かなる狂気を象徴するような存在であったと思います。

目を背けたくなるシーンも多くありますが、鑑賞者を惹きつける独特の世界観は本当に凄かった。変な汗もかきましたが、それでもまた見たいと思わせられます。