笹井ヨシキ

ナラタージュの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

ナラタージュ(2017年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

ちょっと気になっていた作品だったので鑑賞して参りました。

行定勲監督の作品はあまり観たことがないのですが、昨年の「ピンクとグレー」は観ており、登場人物が1vs1のときに生まれる濁った空気感をリアルにスケッチする所にこだわりがあり、感情の不透明性をテーマにしているところに面白みを感じつつも、一方であまり巧くない映画オマージュや悪い意味での抑揚の無い演出に退屈さを感じてしまうところもあり、個人的には惜しいと思う作品でもありました。

今作もそういった行定監督のクセが良くも悪くも発揮された作品で、要所では良いところも多かったですが全体的にはぼんやりしていて冗長さを感じさせるところも少なくなかったです。

まず良かったのは恋愛の不可解さや残酷さを丁寧に描き出していたところです。

本作は簡単に言ってしまえば男女の三角関係を描いた良くある話なのですが、一人の人間が誰かを想うことのベクトルは一方向にしか向かないはずなのに、その余力のような半端な優しさで別の誰かの想いに応えようとしてしまう登場人物たちの無意識の狡猾さや愚かさがメインテーマにあり、恋愛の苦しい部分をひたすらに扱っています。

主人公・泉の想いは松本潤演じる葉山にありますが、葉山の想いは未だに元妻にあり、にもかかわらず弱っている泉に「恋じゃない」優しさを向ける。泉もそんな葉山の言動に時に幸福を感じ、時に憤り、時に真意に気づきながらも葉山を求めてしまう。

風邪をひいた泉に対し手厚く看病したり、ストーカーに怯える泉を守ったりする葉山の行動はもちろん善意の行動ですが、同時に相手を傷つけるのが嫌だからその想いに応えたフリをする狡さも内包しており、松本潤の絶妙に情けない佇まいによりバッチリ表現できていたと思います。

別の誰かの想いに妥協のような形で応えたフリをしているのは泉も同じであり、半端な想いを向けられた小野も傷つき、猜疑心に塗れた醜態をさらすようになってしまう。
恋愛において想いのベクトルは一方向であり誰かを傷つけることはままならないはずなのに、本能的にそれに抗おうとする人々の不条理を良く描き出していたと思います。

そんな彼らが自分の想いを偽る宙吊りの優しさに別れを告げ、人の想いに応える難しさを学んでいく展開には緩やかな成長があり、葉山との別れを示すシーンには泉の前進とも公開ともとれる演出が為されていて良かったです。
有村架純ちゃんはその凛とした佇まいに複雑な感情を滲ませた難しい演技をこなしており、良い女優さんだなぁと思いました。

その他の役者陣、特に時折サイコな表情と不誠実さを見せる坂口健太郎も良かったです。
小野が序盤にさり気なく女性の想いを無碍にしたエピソードを笑い話として語るシーンも良い意味で不快でしたねw

ただ見応えのあるシーンは多いものの、やはり140分という長尺で全てのシーンが「絶対必要!」と言えないところもあって、もうちょっとテンポを上げられないものかなぁと思ってしまったのも事実です。
特にトリュフォーや成瀬巳喜男へこれ見よがしの愚直なオマージュを捧げるとか、こういうのに喜ぶ大人が居るのもわかるけど、何というか自分はしつこいしかったるいと思ってしまうし、やるにしてももう少し品よくできないものかなぁと感じてしまいました。

また終盤で葉山の教え子が自殺するという展開も唐突と言わざるを得ず、葉山が「自分は親身になっていたつもりでも、本人には何の力にもなれなかった」という無力感を噛みしめるという葛藤を持たせるためとはいえ、恋愛というトーンからはどうしても浮き上がってしまうし、泉のナラタージュではそこまで重要とも思えないので、原作からアレンジした方が良かったのかなとも思いました。

とはいえ、行定監督は好感の持てる映画作家ということは良く分かったし、才能も実績も志も運もある人だとは思います!
今作も見応えはあるし役者陣の演技など良いところもたくさんある作品でした!
もうちょっと娯楽性を持たせるようにチューニングしてくれたほうが自分の好みなので、次回作では少し力の抜けた作品を期待したいと思います!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ