真一

百年後の或る日の真一のレビュー・感想・評価

百年後の或る日(1932年製作の映画)
4.0
 Genarowlandsさんがフォロワーさんのレビューを読んでご覧になったという本作品がすごく気になり、さっそくユーチューブ動画を再生。面白かったです。

 まず、1933年製作の本作品が、約10年後の戦争勃発を予言していることに興味を覚えた。33年と言えば、日本が国際連盟を脱退し、小林多喜二が治安維持法違反で捕まり虐殺された年。当時の国民は、先行き不透明感を背景に、いずれ戦争は起きると考えていたのだろうか。それとも、荻野茂二監督ら限られた文化人だけが予見していたのだろうか。

 しかも本作品は、監督本人が「10年後の戦争」で死亡―後に復活―するというストーリー展開になっている。垂れ込める暗雲を感じ取った人々は、監督を含め、自分たちはいずれ徴兵されて戦死すると予測していたのだろうか。1933年当時の国民が思い描いていた「10年後の日本」を、こっそり覗いてみたい。

 戦後日本は飛躍的に発展すると予想している点も興味深い。高度経済成長の到来を言い当てているようにも受け取れる。2032年の日本にタイムトラベルした主人公らが、強力な磁石で動く高速車両に乗って車窓を眺めるシーンには驚かされた。まるで予知能力を持っているかのようだ。

 ただ、2030年代には日本から火星に旅行できるようになるとの予測は、さすが外れるだろうな。70年代の右肩上がり経済が今も同じペースで続いていたら、あるいは実現したかもしれないけれど。第2次世界大戦と戦後の経済成長を予見した荻野茂二も、バブル崩壊から現在に至る「失われた30年」までは思いつかなかったのかもしれない。

 アールデコ調の影絵アニメーションが美しい。この作品の数年前に製作された、あの「メトロポリス」の影響を受けているのだろうか。こうした映画を、当時のモボモガは楽しみにしていたんだろうな、などと想像するのも楽しい。それにしても、こんな素敵な映画が上映されたわずか3年後に二・二六事件が勃発し、軍国主義への道を日本が爆走するとは。一寸先は闇だと痛感。強く印象に残る作品でした。
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