笹井ヨシキ

僕のワンダフル・ライフの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

僕のワンダフル・ライフ(2017年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

ラッセ・ハルストレム監督最新作ということで吹き替え版で鑑賞して参りました。

ラッセ・ハルストレム監督の作品は全てではないですがそこそこ観ていて、
物事に対して邪心や打算的な意識がない無垢な主人公が、ルールやしがらみの多い周囲に溶け込まず意志を貫き通し、時には周りをも巻き込んで自分の人生を肯定していく話が多い気がします。

今作は監督が大好きであろう(究極的に純真無垢な存在である)犬を主人公に据えた超全力ストレートな作品で、良くも悪くも監督の色を存分に感じられる作品でなかなか楽しめました。

まず良かったのは観る前は「大丈夫なの?」と思っていた犬の内面ナレーションがそんなに過剰ではなく、むしろ上品なバランスに抑えられていたところです。

犬が人間の言語を全て理解し達観したトーンでベラベラ饒舌に語られたら観ていられないものになっていましたが、
犬というフィルターを通し、「本能を抑えなければいけない人間の滑稽さ描く」という部分に絞って語られているため楽しいし、擬人化の「人」方向に行き過ぎない愛らしいナレーションになっていて、良いバランスだと思いました。

特に犬のベイリーにはわからない「なぜ怒っているの?何をして欲しいの?」という理由が、我々観客にはわかることで、微笑ましさやもどかしさや感動を生み出していて、犬嫌いでペットを飼ったことがない自分でも少し犬の魅力を理解することができた気がします。

ベイリーが「臭い」で人間の感情を察知するのも状況をよりスリリングに感じるための補助線になっているし、終盤でその設定が生かされているのも良かったです。

犬が輪廻転生することで時代も変わり、その時代の変遷を音楽やファッションで表現する演出もこだわりがあって、内面ナレーションが多い代わりにそういう言語以外で説明するところは物凄く気を使い映画的になっていましたよね。

言語が通じないからこそ犬の動きでコミュニケーションを成立させるところにもカタルシスがあって、尻尾を追う動きや潰れたラグビーボールでのアクションなど、要所はちゃんと映画ならではのものになっていてちゃんと感動があったと思います。

輪廻転生するとジャンル自体も変わるテンポの良さも褒めるべきところで、ボーイミーツガールものから犬と警官のバディムービーに変わり、男女を入れ替えたボーイミーツガールものを挟んで最後は捨て犬となったベイリーの壮絶な旅となる、というオムニバス形式ならではの飽きさせない工夫とテンポの良さを感じるところもこの映画の魅力だったと思います。

ただ、手放しに全肯定できるかと言えばどうかと思うところもままあって、
まずワンちゃん死んじゃうシーンによる泣かせを3回も行うのはちょっと流石にしつこい気がしてしまいます。
突然の死で涙腺が緩んだエリーの死亡シーンに比べると、3回目のティノの死亡シーンはなんというか1回目のベイリーと同じ感じがしてしまって、エリーとティノ順番逆にしたらどうかな?とか思ってしまいました。

あと記憶を引き継いでいるという設定により微妙に思うところもあって、最終的にベイリーはイーサンと再会して色々あったハンナと3人で仲良く暮らすというハッピーエンドということになるのですが、他の飼い主のことはどう思ってるのかな?と。

マヤは結婚して幸せだから良いだろうけど、離婚して孤独を抱えていたカルロスはエリーを失ってまた孤独になってその後のフォロー描写がないもんだから、詮無いツッコミだとは思いつつ、うーんと思ってしまいました。

自分は何のために生きているのか?ベイリーはイーサンと共に生きることでその問いに少しの回答を見出すという帰結になるのは良いのですが、上記の疑問により若干メッセージの歪さを感じなくはなかったです。

あとこれは一概に悪いところとは言えないかもしれませんが、悪人的なキャラクターに対してはとことん救いは用意してないというのも少し気になります。

放火した奴だったり父親だったり、特にイーサンの父親はベイリーのせいで出世の道を閉ざされ堕落してしまったような描かれ方をされていたので、ちょっと可愛そうに感じてしまいました。

まあラッセ監督が描く家族はハートウォーミングに見えて何処か不穏さを帯びており、「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」でも息子の奔放さに病んでしまう母親が描かれていましたが、そういった裏の作家性の現れなのかもしれませんね。

とはいえ思った以上に上品で監督の力量の高さが感じられる犬嫌いな自分でも楽しめる作品でした。
ご都合主義なところもあるけど、犬好きな人にはたまらない作品だろうと思います!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ