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サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のkissenger800のレビュー・感想・評価

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主人公が着ているTシャツが彼の音楽遍歴を示す記号っぽい、俺こっち方面は疎いけどねー。って見ていたら突然のアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンに、分かる、俺にも分かるぞ! って盛り上がったほか、たとえばヒロイン父役のマチュー・アマルリック登場シーン、料理の手を動かすことにかこつけて、くちごもりながらもけっこう言いたいことを言ってるんですけど、一瞬でひととなりが伝わってくるところとか、映画としての作り込みが実に丁寧。
なるほどこういうレベルの仕事をするひとたちなら、テーマの深掘りも信頼に値するのかもな。と思いながら見ていました。

あとね、とあるシーンでむかしの知り合いに居た、醜形恐怖症で整形手術を繰り返す女子を思い出したんですよね。
自己肯定力がめちゃくちゃ低いせいで、こんなんじゃダメだ(手術)もっと良くなると思ったのに(手術)前よりマシになったのかどうかもわからない(手術)。
ことば本来の意味の「自助」しか彼女に差し伸べる手はないんだろう、って当時出した結論を、ずいぶん冷たいなー、と我ながら思っていたものでしたが……だって他者がどれだけ「だいじょうぶだよ」って太鼓判を押しても彼女の耳には届かないわけ。

映画の最初に歌われていた曲は、タイトルもサビもPurify(私を浄化して)なんですけど、まさに無間地獄に居る人間の叫びですよね。どう考えたって、自分の発想に非があることは分かる、だがそこから抜け出せない悲鳴。
そうだよなあ切実だよなあ、でも本当に他人が手伝ってどうなるもんでもないんだもんなあ、だって「pureな状態」を規定するのは究極では自分だから。他人がどれだけ「君はもうpureな状態だよ大丈夫だよ」って言っても本人が納得できない限りその状態が続いて云々、ものすごく個人的な連想がはかどったのです。

2時間かけて描かれた風景は、見る前に想像していたよりはずっと長く心に残りそう。
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