yksijoki

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のyksijokiのレビュー・感想・評価

4.3
静寂とは何か、静寂の大切さを教えてくれる非常に巧妙な作品で、かなり心にぶっ刺さる台詞や描写が多くてとても良かったです。とにかく音に対する演出というか細かい描写が素晴らしくて、他も人も言うようにイヤホンで見たらもっと細やかにそれを感じられそうだなと思った。もちろんスクリーンでもみたかったなとは思いつつ。。

耳鳴りの描写とかあることをした後の聴こえ方の描写とかそう言う「普通が普通である事を思う」的な普通ではない瞬間の演出がよくできていてグッときた。ある地点以降の主人公と恋人とのコミュニケーションは本当に泣けた。

劇中で挟み込まれる自然の風景たちも良かった。静寂の中だからこそ感じる尖りと言うか自然の呼吸とか揺らぎみたいなものが我々も際立って感じ取れたので非常に印象的な描写だった。タイトルとジャケット写真を見てもっと音楽ロードムービーみたいなものかと思っていたらしっかりとしたヒューマンドラマで人生をどう生きるかをしっかりテーマにして描いていてとにかく良作でした。

共助と言うものがある種テーマになっている。病気を「治す」と言う概念そのものへの考え方や「生きる場所を変える」と言う選択とそれによる共助コミュニティの形成というものが表現されていて、確かにこれはある種懸命な生き方というか与えられた状態の中で選択する最善ではあるなと言うのは感じた。途中までの主人公と周りの人間たちとの心の交流と現実を少しずつ受け入れていく様と、ゆるやかに流れていく時の流れとがとても良かったしやはりそこから彼が選択する最後の選択と元の世界が下す判断と。あとはラストカットの素晴らしさ。あの静寂と彼の目の前に広がるある描写と、あそこにカットインしてくる主題歌とがもうスーパーだった。

音楽家としての主人公と彼女の音楽への向き合い方というのもなかなかグッときた。生命線を失うこととそれでもしがみつきたいという思いとが交錯していく様というのがとても良かった。
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