Ark

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のArkのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

突然聞こえなくなったことを受け入れられず、“音のない生活”をすることを選ばなかった主人公。手話を学び、ろう者の生活を学び、聞こえないなりにも幸せに生きる術はあったはずである。だけど主人公は、(ヘビメタの?)ドラマーとしてずっと音を聞いて生きてきたので、突然訪れた音のない世界を受け入れられなかったのだ。愛する彼女の声を二度と聞けないのも、受け入れられなかったんだろうな。しばらくは彼女に勧められた、ろう者のコミュニティで暮らすも、やっぱりインプラントを埋め込む手術を受けることに。術後、コミュニティの方針に沿わないため、これ以上置いておけないと家を追い出された主人公は、音入れまでの4週間、あちこちを転々をしながら過ごした。
しかし思っていた聞こえ方と違った。医者は、インプラントで脳を錯覚させて聞こえるようにしているという。その音はノイズがかっていて、音というよりまるで不協和音のよう。主人公はこれに落胆する。
彼女に会いにいくも、別人のように変わっていた。父親と歌うシーンで、「この愛は私を殺す」「愛する人よ また私は死んだ」という歌詞がある。これが、彼女の心が主人公を愛することで傷付き、離れてゆくことを暗示しているように思えた。主人公はその後、彼女に「俺を助けてくれた」「幸せをくれた」「十分だ」と伝える。彼女の元を離れた主人公は、器具を外した。

主人公の突然聞こえなくなったことを受け入れられない様子がしっかり描かれていたと思う。彼女に支えられてなんとか聞こえない生活を受け入れ、手話を学び、幸せに暮らす……とかいう話じゃなく、誰も救われないストーリー。聴覚を失った本人、その彼女、どちらも救われない。1番辛いのは本人だと思うけど、彼女も辛いよね。私は、彼女は主人公のことが好きだからこそ、このまま愛することが難しかったのかなと思った。手放すことで楽になろうとしたのかなと。または主人公が彼女を手放すことで、これ以上苦しめないよう自由にしてやろうとしたのかも。
最後まで何も上手くいかなかった主人公だけど、音が消えた世界でそれを受け入れ、幸せを見つけて楽しく生きてくれることを願ってしまう作品だった。

主演のリズ・アーメッドがなかなかに繊細な演技を見せてくれた。主人公の感情や情動が細やかに表現されている。
また、主人公の視点での聞こえ方が私たちに分かるように表現されていて、とても良かった。
個人的にハスキーボイスな俳優さん好きなので、少しかすれた声の主人公が好きだった(笑)見覚えある人だなぁ…聞いたことある声だなぁ……と思ったら『ヴェノム』で黒いスーツを纏い裏でヤバい人体実験してる人の役やってた人だった。見てる間ずっと、誰だっけ……ってモヤモヤしてたから分かってスッキリ(笑)
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