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フウムーンのmitakosamaのレビュー・感想・評価

フウムーン(1980年製作の映画)
3.1
手塚の初期三部作の1つ“来るべき未来”のアニメ化で、24時間テレビで放送。
原作はメトロポリスやロストワールドよりも好きなのだが、今作は思った程でもなかったかなぁ。
80年代初頭のテイストに合わせてデザインや脚本をリファインしたのだが、それが上手く作用しなかったと思う。

スター国とウラン連邦が争う世界情勢。当然アメリカとソ連の冷戦構造を暗喩している。
そんな中、核兵器で産まれた高等生物フウムーンは超能力で宇宙からの暗黒ガスの接近を予知し、最終戦争に突入した地球からノアの方舟の様に動物を逃がす計画に移る。

フウムーンの発見者・山田野博士、事件を追う探偵ヒゲオヤジと助手のケン一、スター国ノタアリンとウラン連邦レドノフの対立、新聞記者のロックとノタアリンの娘ココア…この辺の設定は原作のママ。

大きく変えたのが、まずケン一・ロック・ココアのキャラクターデザインの変更だね。少年少女から成人に変えた。正直、これが一番頂けないなぁ。
たぶん当時の手塚は、昔描いた自分のキャラが古くなったと思ったのだろうが、今の目で見ると、むしろ少年キャラの方が古びないレトロフューチャーな魅力に満ちてるのにね。(りんたろう版メトロポリスが良い例)

そして物語もけっこう簡素化してる。
ロックがスター国の諜報員として派遣され、ウラン連邦の捕虜として強制労働させられるシーンが丸々カット。
よって、レドノフの息子イワンと、収容所所長のポポーニャも未登場。

だからケン一・ロック・イワン・ポポーニャ・ココアが力を合わせようとするシーンも無い。大人たちが起こした戦争を少年たちがナントカしようとする大切なシーンなのに。

世界戦争に暗黒ガスの危機に新人類の誕生と、人類にとっての破滅的な展開で、反戦・反核のメッセージは原作通りとても強いものになってはいる。

ただ漫画版最後の、収容所で心が荒んだロックをレドノフが抱きしめ「皆さんこれが私の息子です。お前が私の国で受けた苦しみは私が必ず償ってみせよう」の名シーンが無いんだよな。
“破壊”の描写による反戦のメッセージに対する、“再生”を象徴する名シーンなのに。

戦争による滅亡への警鐘はあるが、相反する「人類に対する希望」も描かれてこそ真の手塚イズムだと思うのだ。
やっぱり原作から改変されオミットされた所の喪失が大きかったなぁ。
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