カトゥ

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男のカトゥのレビュー・感想・評価

4.5
アイヒマン。ナチスドイツの士官であり、悪名高き「ユダヤ人“輸送”計画」の実行者。ムッソリーニ解放作戦などの、まるで映画のような大胆不敵な活躍でも名を残している。写真が残っているが、その強い目の光は、ただ者では無いと思わせる。
 
戦後は南米に逃れ、そして長い潜伏生活の後に逮捕された。イスラエルで裁判を受け、死刑になる。
 
その逮捕に至るまでを、ドイツ人の側から描いた作品。
 
 
まあ、地味といえば地味な映画だ。
老境の検事長(主人公)は、ほぼ孤立無援。ナチスの記憶は世間から忘れられつつあり、しかも政府高官から現場まで、元ナチスの人員は多く隠れている。政治的な意図もあって、彼の望む捜査はまるで進まない。
それでもようやく協力者を得て、南米はアルゼンチンに“大物”であるアイヒマンが潜んでいることが判明し、どうにか逮捕の段取りをつける。そこには権謀術数や策略があり、強硬すぎる主人公の態度が足を引っ張ったりもする。
主人公はかつて同性愛による逮捕歴がある。そして、唯一の協力者である部下も同性愛者であり、これは物語で強い印象と、そして影響を及ぼしていく。
 
銃撃戦もアクションシーンも無い。
胸をすく見せ場だって、ほとんど無い。
不機嫌そうなおっさん達が煙草を吸いながら怒鳴ったりする映像が延々と続く。正直なところ、ここまで頑固な主人公に、感情移入だってしづらい。
でも、というかだからこそ、というべきか、その理解し難い世界から、どうにも目が離せない。かつて、僕達の今現在から少し前に、こういう世界があったのだ。
なあなあになってきたことを明るい場所に引きずり出さずにはいられない人がいたからこそ、戦争は本当の終わりに至る。
苦い終幕だと僕は思う。でも、嫌な気持ちはまるで無かった。観て良かったし、“戦後”に興味のある人には強くおすすめできる佳作だと思う。
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