グラッデン

バンコクナイツのグラッデンのレビュー・感想・評価

バンコクナイツ(2016年製作の映画)
4.2
日本人観光客が多く訪れるバンコクの歓楽街・タニヤで働くタイ人娼婦・ラックと、元恋人の日本人・オザワの再会、逃避行を描いた物語。

自然と物語に引き込まれるような感覚。3時間にわたる物語もあっという間に感じました。逆に、2人のことをいつまでも見続けたいと感じるほどでした。

本作を鑑賞しようと考えた契機は、半年前に自分自身もバンコクに足を運んだ経験があった点が大きいです。
スクリーンに映し出されたギラギラとした雰囲気を醸し出す夜のバンコクの風景を見ているうちに、その時の記憶が鮮やかに蘇ってきました。

一方、物語の中盤以降に登場するタイの東北地方・イサーン、あるいはオザワが単身で訪れたラオスで映し出された広大な大自然、穏やかな雰囲気は(バンコクと)対称的に映されていたと思います。

上記の事象と合わせて印象的だったのは、作中に登場する日本人の1人がバンコクを「楽園」と評していたこと。それに対して前職の元上司の依頼でラオスに向かうことにオザワは、イサーンに流れる緩やかな時の流れに安住の地としたいと述べておりました。そして、イサーンのバーで酔い潰れるフランス人が述べていた先住民にとって地獄、入植者にとって天国であった植民地の見方も興味深かった。物語の節々に触れられていた「楽園」というキーワードが本作のテーマであることに気付かされます。

田舎から生活のために「楽園」と呼ばれるバンコクの歓楽街に出稼ぎに来た女性たちの姿や言動と、彼女たちが語る日本人客の印象、あるいは彼女たちの周辺で存在感を見せる日本人の姿を見て色々と考えさせられました。

現地に根を下ろして撮影された作品だけに、今そこにあるアジアの姿を目の当たりにした印象が強いです。そして、そこに展開される物語に虚実混同の印象を抱くしかない。でも、不思議とバンコクの妖しげな光を浴びたい、と感じさせられる。