三隅炎雄

悪親分対代貸の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

悪親分対代貸(1971年製作の映画)
3.2
土方稼業がどんなに汗水垂らして頑張っても、美味しい仕事は全部やくざがさらっていく。ならばあらゆる非道な手を使ってのし上がり、カネと権力を掴んでやるわいと行動を起こした親子、父が遠藤辰雄、子が若山富三郎。任侠道は自分たち親子の間にしか存在しない、親子以外は全て敵、そこに掟などない。この親子の間だけにある独自の任侠道が壊れて行って、題名の『悪親分対代貸』となる。
ダイナマイトで邪魔な組を一気に爆殺壊滅させるオープニングが凄い。どんな豪胆な悪を見せてくれるかと期待する。が、さほど大したことをしてくれない。妙に計算高く手順も踏んで、太くデカい悪をドンと見せてくれない。やることが全体にみみっちい。善人、弱い立場の人間がやたらに犠牲になっていく。その社会への悪意を今楽しめるか。2023年、不正腐敗がはびこり酷く貧しくなった日本で、これを昔のように無邪気に楽しむことはなかなか難しい。社会の倫理的な底が抜けておらず、生活にまだ余裕のあった時代の娯楽に感じる。
若山が恩のある侠客菅原文太と父遠藤との間の任侠道で引き裂かれる展開は唐突だしつまらない。しかも若山は愛妻の妊娠を知ると、静かな生活がしたいなどとほざき出すので呆れる。オープニングのキャラクターが見事に吹っ飛んで、完全に別人格になっている。悪の突き詰め方が生ぬるく、不徹底だ。
ラストは奇天烈な描写で、何度見ても可笑しい。まあここだけで東映任侠映画、珍品中の珍品とは言えるだろう。
三隅炎雄

三隅炎雄