かたゆき

まともな男のかたゆきのレビュー・感想・評価

まともな男(2015年製作の映画)
3.0
平凡な中年サラリーマン、トーマス。
彼は15歳になる一人娘と最愛の妻とともにささやかながらも幸せな日々を過ごしている。
ただ少し酒癖が悪く、過去に起こしたトラブルから現在は禁酒し、週に何度かカウンセリングに通っている。
不安と言えばそれぐらいで、仕事もぼちぼち順調、思春期の娘と情緒不安定気味の妻とは多少ギクシャクしているもののそれなりにいい関係を築いているつもり。
そう、彼は何処にでもいるような“まともな男”だ。あなたと同じように――。
ことの発端は、家族水入らずで出かける予定だったスキー場へのバカンスだった。
ところが直前で上司の娘である同じく15歳の女の子、ザラも連れていくことに。
この何かと背伸びしたい年頃のザラが、キャンプ場へと着いた初日の夜に酒場のパーティーに出かけたいと無理を言い出す。
上司との兼ね合いもあり、トーマスは渋々自分の娘と一緒に酒場へと送り届ける。
だが、数時間後に迎えに行くとザラは泣きながら衝撃の告白をするのだった。
自分は地元の若い男にレイプされた――。
上司に何と説明すればいいのか。トーマスは事態を取り繕うため、咄嗟に小さな嘘をついてしまう。
その些細な嘘が予想もしない事態を招き、やがて自らをますます窮地へと追い込んでゆくことも知らずに…。
平凡なサラリーマンが落ちてしまった、そんな日常に潜む危険な落とし穴をシニカルに描いたクライム・ドラマ。

特筆すべきなのは、このトーマスという男の絶妙なキャラクター設定でしょう。
「こういう人、実際によくいるよね」と思わせるほどリアルで、ところどころ身につまされるほどでした。
みんなの顔を立てるあまり、その場その場で適当な嘘を繰り返し、自分は優しいふりをしながら結局は自分のことしか考えていない、そして大きな事件があるとおどおどしてうろたえるだけ、どうしようもなくなると最後は酒に逃げる……。
もう典型的な小心者のダメ男。
彼が自業自得の窮地へと追い込まれる様はなかなかリアルで最後まで引き込まれました。

ただ、正直それだけという印象もなきにしもあらず。
この手の作品を得意とするコーエン兄弟ほど突き抜けたものもなく、かといってブラックな笑いに溢れているわけでもなく、最近流行りのイヤミスのように何日も引きづりそうな後味の悪さもない。
そこそこよく出来た“まともなクライム・ドラマ”、ただそれだけですね。
かたゆき

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