せいか

五日物語 3つの王国と3人の女のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

1.5

このレビューはネタバレを含みます

(※2021/07/25追記:2021/07/25にブログに清書したレビューを投稿しました https://to-the-kind-reader.hatenablog.jp/entry/2021/07/25/100221)

(自分用雑記メモ)

バジーレの民話集『ペンタメローネ』から一部の物語(「蚤」「生皮を剥がれた老婆」など)を抜粋し、一つの連なりのある作品にしたもの。邦題の『五日物語』はこの『ペンタメローネ』を日本語訳したものである(そして言うまでもなく、原作の民話集は『デカメロン(十日物語)』を意識した表題になっている)。ただし、かなりアレンジは加わっている。

とにかく登場人物たちは全員エゴイズムに満ちており、愛らしきものを持っていても心が通じ合うこともないか、偏執的なものでしかない。

子ができない妃の嘆きに応え、ほとんど助かる見込みもないことを承知しながらも命懸けで特効薬となるらしい怪物の心臓を取りに行く王様の話から物語は始まるが、その冒険はやはり自身の死と引き換えに宝物を得て終わる。そして妃はその死を形だけでも嘆きもせず、彼の傍らに包まれていた心臓に飛びつき、乙女によって調理されたそれに貪り付く。こうした虚しさがとにかく最後まで品を替えて続いていく作品だった。

子を溺愛し独占し、支配下に置こうとする王女の歪んだ愛に対し(そしてそれゆえに彼女は化け物となって息子に殺される)、蚤を育てる王は娘に全く関心がないながらも支配下には置いておこうとする人物として描かれている。少女から外の世界へ出ることを憧れる娘に対して無関心に何もせず、何もさせずに放置しておきながら、可愛がっていた大きな蚤が死ぬなり、その革が何でできているかを当てた者の所に娘を嫁がせるといったむちゃくちゃな提案をする(そして、頭から娘を嫁がせる気はない)。その結果、求婚に来た者の中で娘がこれはと思った男を無視し、言い当ててしまった化け物のオーグルに嫁がせてしまうことになるのである。当然、全く自分の意志が尊重されないままこんなことになった娘は嫌がって自死すらしようとするが、そうして窮地に追い込まれると途端に弱気になり、自分の権威を出して脅す王を目の当たりにし、蔑み、開き直ってこの婚姻を受ける。とにかくディスコミュニケーションの連続である。
オーグルとはそもそも表面的なコミュニケーションもできないままに崖の最中にある不衛生なすみかに幽閉されては犯され、嫌気がさして他人を巻き込んで逃げ出すも、その(親切な)他人であるところの旅芸人一座は追ってきたオーグルに皆殺しにされ、ここに至ってようやく彼女はオーグルを自分の手で殺すという選択をする。オーグル自身は意志疎通ができないながらも彼女を負ぶってやったりと彼なりの優しさらしきものは見せていたり、散々裏切った彼女が抱き締めただけで気を許したりという態度を見せていたり、ディスコミュニケーションの結果が彼女のナイフに宿っていたなあととにかく思う。
何はともあれ、血まみれの彼女がオーグルの首を城に持ち帰り、王に「これがあなたが選んだ婿よ」と見せつけて相手を屈服させるシーンはなかなか良かった。言葉が通じない相手には力を見せてその傲慢の鼻を折ってやるというか(それこそディスコミュニケーションの極致だ)、彼女がまだお姫様だった時、侍女にランスロットの物語を読んでもらっていたのだが、騎士(ないし王子様とも言い換えられよう)に憧れるお姫さまという甘い夢は叶えられなかった少女の寂しさを感じた。自分の道は自分で切り開く。この作品はすべて「代償を払って何かを手に入れること」がテーマだったのだが、彼女もまた、ただお姫さまでいるだけではいけなかったのだろうが、とはいえ、とにかく残酷な現実を突きつけてくるシーンだった。そして彼女自身が国を統べる王女に変じる(ちなみに本作の幕はここで終わる)。この一点は好きである。

老婆たちの話はとにかく老いに対する嫌悪感を催させる話だった。やることなすこと出るシーンすべてが、こう言うと語弊もあろうが、大体気持ちが悪い。
二人暮らしでそれなりにうまくやってきたのだろう老姉妹が、王が関わってきたことで無茶苦茶になる。老いらくの強欲が着実な描写で描かれているし、姉妹がその実、自信の幸福を最上位に置き、相手のことは考えていない身勝手さがあることも描写されていた。姉がたまたま若さを手に入れ、王との結婚式に妹を招待したのは一つの誠実さだったのだろうが、それを知った妹は痴呆を起こしたように周囲に彼女は自分の姉だから城に置いてくれ、一緒にいたいとひたすらに訴え、相手の都合など考えもしない。しつこく強請り、老人のままだと共にいられないなら、どうして若くなったのかを教えてくれと迫り、そんな妹に姉も慌てながら、つい、「生皮を剥いだのよ」と適当なことを語る。そうして妹は狂ったように剥いでくれる人を捜し、生皮をはいでもらって血塗れで町をさ迷う。前半はとにかく姉に振り回され被害者的な立場だった妹だが、後半では立場が逆転しており、この結末にもあまり同情すらわかないところがある。ざっくりいってしまうと、姉は前半で妹を想わず、妹は後半で姉を想わなかった。
そんな姉も最後に老婆に戻り始め、ひっそりとその場から逃げ出してエンディングを迎えることになる。

とにかくひたすらに人々が折り合わない物語群だった。メモのために長々と書きはしているが、おおよそはあまり心に引っかかるところもないお話でもあった。鑑賞後の気持ちとしては、率直に言うと、どうでもいいが勝っていたところはある。

始終、画面は美しく、服装も見応えはあり、その点も良かった点の一つではあると思う。

ただ、民話が元になっているので童話的な幻想的な世界観であるのだが、テキストで読んだり聞いたりして想像する世界の曖昧模糊とした美しさには敵わない画面でもあるなあと思いもした。あまり映画向きのシナリオではないと思う。
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