QTaka

はらはらなのか。のQTakaのレビュー・感想・評価

はらはらなのか。(2017年製作の映画)
3.5
その舞台は、誰のためのシナリオだったのか。
この物語の転機は、彼女が生まれる前に有った。
優しさの中で成長する少女の物語。
ファンタジー?、ダークファンタジー???
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少女の夢は、女優になること、その夢は母親に近づくこと。
少女には、すぐ側に居て、語りかけてくれる無二の友がいる。
”友”というか、もう一人の自分なのだけど。
その自分との会話が、支えであり、勇気の源であり、その声に導かれて行く。
はじまりは、そんな少女の姿だった。
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地方劇団の十三年ぶりの公演が物語の中心。
家族構成が分かってくると、少女の置かれた環境も分かる。
シングルファーザーの一人娘。
母親の影を追うように女優を目指している。
親夫婦が過ごした田舎町へ引っ越してきたところ。
そして、地元劇団の十三年ぶりの公演が企画されている。
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この十三年前の公演は、母親が主役だった。
劇団員は、入れ替わり、当時を知るのは、演出家のみ。
そして、当時、主役を演じた母の共演者は、喫茶店を開いていた。
ということが明らかになって行く。
この辺で、全体像が見えてくるのだが、まだ序の口だった。
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物語の前半は、少女のもう一人の姿がリードして行く。
それは、少女の葛藤であり、希望であり、夢であった。
それは、母の居ない彼女にとって、あるいは母のような存在にも見えた。
そして、その不思議な存在が、彼女を導いて行く。
その先に劇団と、かつて母親と共演した女性が居た。
そして、彼女は公演の秘密を知ることになる。
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母親を追う彼女にとって、そのシナリオは、特別な意味を持っていた。
それは、母親から少女への贈り物であった。
それは、その時、既にお腹に居た、我が子への贈り物であった。
少女は、自分の為に用意された舞台へ立つことになる。
母親の思いの詰まった、自分の居場所へたどり着く。
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物語の構成がとても面白かった。
舞台を作って行くエネルギーと、その過程で込められた思い。
それらが、時を経て、亡き母から少女へ伝えられるという。
物語の展開の膨らみが、予想を上回っていた。
主人公の原菜乃華さんの演技も良かった。
最後まで少女っぽいところから抜け出せなかったのはキャラクターとして置いておくとして、良くできていたと思う。
むしろ、彼女に絡む周りのストーリーが面白く見られた。
回想シーンの、演出家”粟島”と”マリカ”、”リナ”のシーンは、短くて、深い、微妙な演出が感じられた。そこで全ての種明かしがなされるのだけど、それをあっさりとしてのけるのは、演出の妙だろう。
もう一つ、周辺の要素として有るのが劇団の風景だ。
演劇を作って行く姿を見せていた。
その楽しさを表そうと一生懸命だった様子が見て取れる。
そこが、母親の居た場所であり、少女の探していた場所であり、目指す場所なのだから、演出としてそこに魅力をたっぷり見せるのは必須だったのだろう。
確かに、そこは魅力的だった。
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映画を見ながら、映画人たちの思いを見て取れる。
それは、完成した映画には直接関係ないことかもしれないけど、演じている彼らや、制作している人々にとって、日々大切にしていることに違いない。
映画を見ている観客の一人が、その映画人たちの姿に思いを馳せるのは間違いでは無いだろう。
そんな風景が見えた気がする映画だった。
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