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Man from Renoのyのレビュー・感想・評価

Man from Reno(2014年製作の映画)
4.4
存在しないはずの男、奴は一体誰なんだ。セガールの娘である藤谷文子と北村一輝が活躍する、アメリカのインディペンデント映画。仕事に嫌気が差して日本を離れた女流ミステリー作家が事件に巻き込まれるという最高の設定のうえ、濃霧により視野が失われた夜道の交通事故のファーストショットから隙がなく、重厚なミステリーの質感を保ち続ける。ちゃんと日本人キャストが日本人役を演じていることに少し嬉しさを覚えた。

一人の女を巡る2人の日本人男性の謎に、自らが轢いた男の顔と 「アキラスズキ」 の名前を手がかりとして、老刑事が迫る事件の全貌。表面的な事件としては何も起こっていないのに、何かが起こっている(そして誰もがそれに翻弄されてゆく)居心地の悪さがたまらない。その上会話が一々素晴らしく、藤谷文子の独特の間の取り方や煮え切らない表情から、常に重々しく、張り詰めるような緊張感を孕んでいる。一夜を共にして理解を深めたつもりでいた男について聞かれた際の、「(彼について)これ以外に何か分かる?」 「…煙草を、吸う。」 が良すぎた。
女と男、同じ 「アキラスズキ」 を探しながらも、それぞれの頭に思い浮かべる男が違う、噛み合っているようで噛み合わない会話もまた最高だし、「コミ」 に至っては暴れたくなるほどの“日本語的”カタルシスを覚えた。丁寧に紡がれる粋な台詞と、層のように重なってゆく人間関係。小説を読んだ後のような余韻に浸る。どちゃくそな傑作。
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