せんきち

It Is Fine! Everything Is Fine.(原題)のせんきちのレビュー・感想・評価

3.7
カナザワ映画祭の最大の目的はこれを観るため。カナザワ映画祭観客のオールタイムベストに選ばれた作品。DVD化はされず、ある条件下でなければ観れない作品。


監督のクリスピン・グローヴァー(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティのお父さん、『チャーリーズ・エンジェル』の髪フェチ殺し屋の人)の詩の朗読とセットでないと公開しないのだ!藤岡弘、※か!



※藤岡弘、をゲストに呼ぶ時は共演者が藤岡弘、の居合を観ないと出てくれないという話(@伊集院光のラジオより)


本編公開前に30分のクリスピン・グローヴァーの奇怪な詩の朗読。スライドと共に訳詞が出るが本当に全く理解できない!脳がグラグラした所で本編の公開。


74分の本編(内容は後述)が終わった後、監督のQ&Aに。観客の質問に入る前に監督が本作の製作経緯を説明する。これが長い。全く終わる気配を見せない。監督の解説が1時間オーバー!21時半にスタートしたのに既に1時近いのだ!そこから観客の質問タイムに!


これは付き合えないと途中退席。ホテルで爆睡。Twitterでは質問タイムが30分続き、その後サイン会に。観客のコメント全部にクリスピン・グローヴァーが答えたためサイン会が終わったのは4時近くだったそうな。監督も観客も元気だな!通訳さんの顔が死にかけてたけど。



この奇怪な映画体験とセットで本作を語りたい。


何故なら、映画単独で観た場合低予算で作りの粗いアートフィルムでしかないからだ。


四肢の麻痺した障害者である主人公(スティーブン・C・スチュアート)が髪の長い女と寝て殺害を繰り返す。これだけの話をデビッド・リンチ的な悪夢の様なビジュアルで展開していく。


面白いか面白くないかで言えば面白くない。しかし、本作は実際に四肢麻痺の主人公スティーブンの持ち込み企画であり、脚本も彼自身が書いたこと、当初の内容はほとんどポルノに近かったこと、撮影終了後すぐにスティーブンが亡くなったことという話を聞くと本作の印象が変わってくる。

主人公はデートした女性に求婚する。しかし、彼女から「あなたは素敵な人だけど恋愛対象にはならないの」と断られる。主人公は彼女を殺害しレイプする。その後、何度も主人公は髪の長い美人に「あなたは素敵な人」と惚れられ、SEXして殺害を繰り返すのだが、最初の女性だけがリアルに撮られている。多分、求婚を断れたのは実話なのだろう(監督もそう感じたそうな)。その後ののSEXと殺人に全くリアリティがなく悪夢の様にみえるのも意図的だ。


本作は障害者であるスティーブンの内面世界を忠実に描写してるのだ。髪の長い美人と寝たい。それもコールガールとのSEXではなく、自分を完全に認めてくれる様な美人と。した後に「そんな都合のいいやつがいるかよ!」とばかりに殺害するスティーブン。歪んでいるが、とてつもなく正直な告白だ。


全編を通じ、主人公の言葉は翻訳されない。全て「XXXX」と表現される。女性はそれを聞いて彼の意図を完全に理解してくれるのだ。自分を理解して欲しい希望と絶望が表されている。


これは私小説ならぬ私映画に近い。注釈がないと理解できないだろう。注釈ありきで表現されるアートなんて多くあるが、そういう意味で貴重な体験をしたなと思う。しかし、作りは本当に粗いので褒められたものではない。シネフィル向け作品。
せんきち

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