菩薩

ヴァニタスの菩薩のレビュー・感想・評価

ヴァニタス(2016年製作の映画)
4.2
『佐々木、イン、マイマイン』の習作として充分過ぎる出来だし、なんならこっちの方が好きかもしれない。ガス・ヴァン・サントの『エレファント』を想起させるのは当然だと思うが、むしろより近しいのはムラーリー・K・タルリの『明日、君がいない』では。キャンパスライフとは名ばかりの喫煙所と体育館の往復、大学3年生が感じるであろう焦りと苛立ちと諦め。このままでいいわけ無いのにこのままでしかいられない自分、そんな自分とは対照的に疑いもなく毎日を過ごしている様に見えてしまう周囲の人間、こんな大人にはなりたく無いなんて奴等から突きつけられる正論、何故だか感じてしまう根本的な「人種」としての違い。社会が所詮プロレスみたいな物なら、自分はずっと敗者である事を強いられながら生き続けなきゃいけないのではないか、そんなぼんやりとした不安からの逃避、それだけで繋がっている共犯関係の4人。その関係性は結局偽物の安心でしかなく、皆のモラトリアムは平等に死に絶え、1人の時に感じる強力な孤独感は今日も生命を削り取っていく。誰もいない体育館に響き渡る音、1人で座る教室と喫煙所、未来が見えていたあの頃と過去しか見えなくなってしまった今、どうしたって手の届きそうにない「普通」の幸せ、羽ばたけなかったイカロスに訪れる残酷な結末。これを青臭いと一蹴するのも簡単だろうが、『佐々木〜』同様自分を見てしまう人にはめちゃくちゃ刺さると思う。と言うか単純に一作目の長編がこれは上手すぎるのでは…撮影もしっかり凝った作りになってるし繋ぎも良い、この空気感を出せるのは素晴らしいと思う。これが武蔵野館で培われた感性なのかもしれないが、それ以上にこの人はきっと弱くて優しい人なんだろうな、応援してます、挫けないで欲しい。
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