シズヲ

一晩中のシズヲのレビュー・感想・評価

一晩中(1982年製作の映画)
3.0
一夜を彷徨っては繋がり合う男女の浮遊。如何なる話であるかも語られず、ただただアベックが次々に現れてはその姿が淡々と映し出される。暗がりの中でこ描写が只管に続き、最早登場人物を判別する余裕もない。まるでそういうものであるかのように、数多の恋人達による逢瀬の断片だけが気怠げに繰り返されていく。前情報は殆ど無いまま鑑賞したけど、これは筋書きを追うのではなく事象を見る映画であることを序盤で悟る。

“夜の闇”の陰影そのものが画面の構図を形作る。飾り気のない宵闇の美しさ。仄暗い静寂に浮かび上がる恋人達は多くを語らず、夜を照らす灯火のようにそれぞれの感情を燈していく。時にサウンドを挟みながら、“一晩”と“男女”の結び付きをひたすら反復するように描き続ける。

そして終盤、朝の訪れを経て、一晩が終わりを告げていく。それまでの夜の描写と一線を画すような“夜が明けた街に”のカットが寂しくも美しい。愛し合う二人に割り込むように、日常という喧騒の始まりを否応なしに告げるように、車のクラクションがけたたましく鳴り響くラストがやけに印象深い。それにしてもスタッフロールのBGMが妙に不気味なのが気になる。

改めて振り返ってみると、NYなどに端を発するリアリズム的アングラ映画の系譜はやはり得意ではないことを再認識させられる。シャンタル・アケルマンがジョナス・メカスの影響を受けて作風に取り込んでいたことには納得がある。語らんとする演出は伝わってくるけど、正直好みではない。暗がりに次々に現れては消えていく影法師達の素っ気無い映像に関心を持ち続けるのは些か厳しかった。
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