イホウジン

ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺんのイホウジンのレビュー・感想・評価

3.9
「祖父をたずねて三千里」

日本やディズニーのアニメ映画に慣れていると、今作の異色さに驚かされる。
この映画の興味深い点は、いわゆるヒロイン的な立場に来る人物が登場しないところだ。つまり、終始主人公の一人称的な視点で物事が展開していくのである。そしてその主人公が女性であるということも重要だ。確かに恋愛要素が皆無な訳ではないし、船の乗組員など登場人物のほとんどは男性だが、今作における彼らの重要度はとても低い。映画に彩りを添える一要素としてしか働いていない。この意外さから、私たちが知らぬ間に「男と女が登場すれば恋愛が始まる」という固定概念に陥っていることを痛感させられる。“女性の自律”が広まる昨今の中で、いつまでも男女の恋愛にこだわろうとする大手アニメ業界へ一石を投じた作品とも言えるだろう。
だからといって、それが映画の主題という訳ではない。あくまでストーリーの本流は「祖父の威厳を回復しようと奮闘する孫娘が大冒険に出る」というものだ。ここだけ省みるとこれまでの冒険アニメ/映画と際立つ差異は確認出来ないが、むしろその平凡さが重要なのだろう。冒険映画なんてアニメ映画の代名詞と言っても過言ではないし、主人公の精神的成長も頻繁に取り上げられるテーマだ。そういう意味では極めて王道に沿った映画だ。つまり今作で大切なのは、「アニメはもっと女性の自律をテーマに上げろ」という強いメッセージではなく「既存の構成のアニメでも現代的な多様な表現ができる」という次世代に向けた希望が主題となったことである。

映像も見事だ。日本のアニメの場合は特に「リアリティ=超絶技巧な背景画」という考え方が定着してしまっているが、それは今作の単調な色使いや大胆なストロークによる映像表現とは全く対極を成すものである。(唯一例外があるとすれば、今作の推薦人でもある高畑勲監督の作品か。)しかし、それは決して映画における“リアル”を排するものでなければ、むしろ自然の広大さや荒々しさを的確に表現するにまで至っている。終盤のブリザードのシーンは圧巻だ。まさに主人公が吹雪で視覚情報が失われる状態が、その粗い雪の表現で見事に観客まで伝わっている。「スパイダーバース」然り「プロメア」然り、“リアル”を抽象的な絵によって表現する試みはしばらくのトレンドになりそうだ。

展開の単調が残念だった。終盤に向けての盛り上がりがほぼ無かったと言ってもいい。もっと突き詰めると、そもそも冒険の目的が何なのかもはっきりと示されないまま話が終わる。船を見つけたいのか、北極点に行きたいのか、祖父の威厳を回復したいのか、どれもぼんやりとしか把握できなかった。正直、映画が短すぎる。90分程度で描ける物語ではない。序盤のストーリーの丁寧さとラストのストーリーの早足になった感じの対比が悪目立ちしていたように思える。
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